諦めたのかと視線を戻せば、まだ男の瞳には
熱くて甘ったるくて胸焼けしそうな炎がともっていた。
「ここはまだ……取っておけよ?」
唇を這っていた指先を男は、まるで呪いでもかけるような
儀式めいた美しい所作ですっと目を閉じ、自身の唇に押し当てる。
一連の動作の美しさに目を奪われているすきに
薄く開いた瞳とぶつかり、私は息も出来ずにあっさりと唇を奪われた。
俺が盗みにくるまで誰にもそんな顔は見せるなよと
唇に触れた指先の冷たさとは裏腹に熱を孕んだ男の視線。
その瞬間、私の視界はオーバーヒートした頭の熱で暗転した。
………
……
あれ?
鳥の鳴き声、シーツの温もり。
弾かれるように右隣を見るが誰もいない。
何だったんだ、あれは……。
「夢?」
それにしては……唇にふれる指先が震える。
とても美しくて……そして………。
初めて向けられる男の情欲に満ちた瞳。
私の顔はその日ずっと熱をもって火照って恥ずかしくなった。
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彷徨いアリス