俺は悪くない
※ATTENTION!このお話は47ページ(夢だと言ってくれ01)の閑話になります。まず初めにそちらをご覧下さいませ。
それは俺が一日の中での至福のとき…食事中に起きた。
「なん、だって…?」
ぱきゃり、と無残にも折れ曲がった箸。それを真っ青な顔で凝視する秋良。しかしそれを心配する余裕など無い。
料理上手な秋良のご飯は何でも美味しい。俺も作ることが好きだから、尚更秋良の料理の腕が分かる。この味付けはどうやってるの、なんてたわいのない話をしながら食事をするのが幸福の一時だと言うのに…。
「今、沖矢昴と…キス、って言ったか…?」
今し方聞こえたワードを復唱すれば、目の前の仔羊…もとい秋良はぷるぷる震えながら小さく頷いた。
「──っ!!」
その瞬間、頭に浮かんだのはW消毒Wの文字。パッと席から立つと、洗面所に直行した。
───どこかに使ってない新品のタオルがあったはず。
洗面所の戸棚を漁り目当てのタオルを見つけると、それと近くにあった洗剤を引っ掴んでまたリビングへ戻った。
「………」
「え、ゼロくん…?」
無言のまま秋良の顎をクイッと上に向ける。戸惑いの色を浮かばせる青い瞳と視線がかち合った。
「一体何…ぶぶっ!?」
そのまま勢いよくゴシゴシタオルで擦りまくる。無心でゴシゴシと。秋良はその意図を理解しているのか、抵抗すること無く大人しく唇を擦られていた。…ただ、擦りすぎて流石に痛かったのか涙目である。
───やり過ぎたか。
そろそろもう止めよう。擦るのをやめてタオルを退かせば、そこには擦りすぎて真っ赤になった唇があった。
ぷっくりと柔らかそうな赤い唇。美味しそうなそれに、アイツが触れたかと思うと腸が煮えくり返りそうになる。
「アイツ絶対いつか殺す」
「…っ!?って、ちょっと!?」
殺意を抱きながら消毒液の蓋を開けていると、それを見た秋良の顔が再び真っ青に染まった。
「そ、それどうするつもり!?」
「消毒する」
唇を。なんて言わなくても分かってるのだろう。いやいやいやと頭を振る秋良の顔を固定しようと掴む。
「消毒って、それ、漂白剤だから!?」
確かに布巾やまな板の消毒にも使える漂白剤。それは物に対して使えるのであって、そんなの顔面に被った日には死ぬ!と騒ぐ秋良に漸く我に返る。
「…そうか、それもそうだな。じゃあ──」
固定したままの顔に、自分の顔を近付ける。…そして。
───ちゅっ。
「へ…?」
阿呆面満開の秋良。同じ顔の筈なのに、中身が違えば全然違う風に見える。俺なのに俺じゃない。全く違う表情。
そんな俺を茫然と見上げる秋良。俺はどんな表情をしているのだろう。怒り?悲しみ?…分からない。ただ、その透き通った青に視線を合わせる。
「なに、を…」
「消毒」
「消毒って…。だって、それキス…──っふ…」
煩い。隙を見せたお前が悪い、なんて言葉は再び交わった唇により霧散する。
「ぅ…んっ…は、ぁ…」
口を開いていた事もあり、意図も簡単に口内に侵入する事が出来た。掻き乱すように口内を荒らす。逃げ惑う舌を追いかけ絡め取り吸えば、甘い声が鼻から抜ける。
───悪くない。
同じ顔だから無理かも、なんて思っていた事もあったがやはり人間中身か。
掻き乱されるような荒々しいキスに戸惑っている秋良の上気した頬や潤んだ瞳は中々腰にクるものがある。暫く堪能していたのだが、やがて力の抜けてきた秋良に気付いて漸くその唇から離れた。…勿論、離れる時にわざとらしくリップ音を立てるのは忘れない。
「はあ、っん…な、なんで…」
心底不思議そうに見上げてくるその透き通った青が潤んで綺麗に揺れる。
「…消毒」
俺は再びその言葉を紡ぎ出すと、秋良の瞼にキスを落とす。
「お前、隙あり過ぎ」
「む、むぅ…」
だからこうして俺にも唇を奪われるんだ、とは言わなかった。再び秋良の顎を掴んで上げると、 俺は口角を上げながらにっこり口を開いた。
「今度、アイツに隙見せたら…どうなるか、分かったな?」
「ひゃい」
ぶんぶん頭を上下に振る秋良。よろしい、と顎を掴んでいた手を離すとあからさまにホッとした表情を見せる。
「でも、俺は許したわけじゃないけどな」
「っ!?」
この後散々秋良をいじめ倒した俺は悪くない、と言っておこう。