娘が可愛すぎる件について
風見裕也は結婚して6年、更には今年で5歳になる娘がいる。仕事柄、家を留守にしがちな風見を献身的に支え気立ての良い妻と、その妻に似て愛くるしい容姿の少しおませな女の子。徹夜明けで家に帰っても、この笑顔の為ならとまた3時間後には過酷な書類の山が残っている死地(職場)へと向かう事が出来るくらいには二人を心から愛している。その最愛の二人が、大きなベッドの上ですやすやと穏やかな寝息を立てて寝ている。冷たい印象を受けがちな風見に似ず妻に似た娘。横で寄り添うように眠る妻に本当にそっくりだ、と思わず笑みが零れ落ちた。
この様に、普段表情筋があまり働かない風見も、この二人を前にしたら自然と笑みが零れ落ちるくらいに二人を深く愛していた。しかもこの顔で…と毎回言われるが、娘なんかは(物理的に)目に入れても痛くないのでは?寧ろ入れて試してみるべきか?と本気で思っている。それくらい、妻は勿論、時間がなくあまり接する事も出来ず泣きたくなることもあるが、風見は小さな我が子の事もとても大事にしていた。
そんな最愛の二人のそっくりな寝顔に思わずくすりと笑みを零したからだろうか。妻が身動ぎをしぼんやりとした眼を風見へとゆっくり向けた。
「ん……、あれ…帰って来てたの…?」
おかえりなさい。とまだ4時で外も暗く眠たいだろうに、それでも身を起こす妻。隣で寝息を立ててる娘を起こさないよう細心の注意を払いながらただいまと言えば、妻の顔に優しい笑みが浮かんだ。それだけで三徹明けだろうが疲れが吹っ飛ぶのだから、愛の力は偉大である。
「まだ朝も早い。寝てた方が…」
娘を起こさないように声を潜めながら再び言葉を紡ぎ出したが、それを遮るように妻がベッドから降りた。
「だーめ。今寝ちゃったらまた次いつ裕也くんに会えるか分からないし。…少しでも一緒にいたいの。───だめ?」
そう言われてしまえばNoなんて言えるわけもなく。照れた顔を見せないように、誤魔化すように頬を掻きながら「駄目では無いが…」と妙に歯切れの悪い言葉を言いながら妻と一緒に寝室から出て行った。
まだ外が暗い為、リビングの電気を付ける。暗闇に慣れきっていた瞳に少し辛いものがあったが時間とともにそれも慣れる。シパシパと軽く瞬きを繰り返し草臥れたスーツの上着を脱げば、何も言わずともそれを受け取ってくれる妻。
「クリーニングに出しておくね。新しい着替えは脱衣所に置いておくから、裕也くんは先にシャワー浴びたら?」
「ああ、ありがとう」
何から何まで気の利く妻だ。娘が居る時は風見のことをパパと呼び、二人っきりの時は先程のように裕也くんと呼ぶ。付き合いたての頃から変わらないその呼び方に、いつも胸を熱くさせていることに果たして妻は気付いているのだろうか。
───今日も嫁が可愛い。
三徹明けでぼんやりとしながらも、風見はシャワーを浴びながらそう思うのであった。
それは、本当に唐突に訪れた。
「パパ!」
「っ名前!?」
今日も今日とて目が回るかのような忙しさの中、内線で至急警視庁のロビーまで来てくださいと受付に呼び出されたと思えば、そこにはこの間の誕生日に買ってあげたもこもこのウサギのリュックを背負った一人の女の子がいた。
緊張からか、ぷるぷると震えながらも気丈に前を向く姿は間違えることもない…───そう、風見の娘である。
「えっ、あ、風見さんのところの娘さん!?」
受付の女の子もどうやら風見の娘だとは思わなかったらしく(何せ外見はほぼ妻なので風見要素はない)、目を白黒させながら風見と娘を交互に見詰めている。
しかし風見にはそんな受付嬢の様子を笑っている余裕などない。何故、今、ここに、それも一人でここに娘がいるのだろうか。全く状況が掴めないまま慌てた様子で娘…名前に駆け寄れば、泣きそうだったその顔に漸く少しの安堵が浮かんだ。
「なんで名前がここにいるんだ?ママは一緒じゃないのか?」
肩に手を置いて辺りを見渡しながらそう尋ねるが、名前はWママWという単語を聞いたところで拗ねたように唇を尖らせていた。
「パパはいっっつもママばっかり!きょうはママいないよ!名前がひとりでパパにあいにきたんだもん!」
ぷくっと膨れた頬っぺは、通常ならただただ可愛なーと思うだけなのだが、現状が現状なだけに風見は焦っていた。
「ひ、一人で!?一人で警視庁まで来たのか!?」
サッと顔色を悪くする風見に気付かず、名前は得意げに「そうよ!」と胸を張る。
「ママはこのあいだパパにあったっていってたけど、名前はパパにあえなかったからあいにきたの!」
ママばっかりパパを独り占めするなんてずるい!みたいなことを舌足らずな口でペラペラと喋る愛娘。確かに、前回は朝も早く名前には声を掛けずにすぐに仕事に行ってしまったのは事実だ。しかし、だからと言ってまさか娘がそれに嫉妬してわざわざ自分に会いに来るとは思わないだろう。風見は嬉しく思えばいいのか、はたまた一人でここまで来たことに危ないだろうと怒ればいいのか分からず思考がショートしてしまった。
そんな所に現れる一人の男。
「…風見?おい、そんな所でどうした…───っと」
サラリとした蜂蜜色の髪に褐色の肌。普段外で浮かべている甘い蕩けるような表情こそ今は引き締まっているが、その青い双眸は目の前の出来事に驚き見開かれていた。
「……名前ちゃん?」
風見のデスクに置かれた小さな写真立てにいた彼の愛娘…名前だといち早く察し、思わずポロリとその名前を零す。風見の背後から聞こえた自分の名前。それに反応した名前が覗き込むようにちらりと頭を傾けると、そこにはキラキラ輝いて見える男…降谷零がいて。
「───おうじさま…!」
「は?」
「えっ?!」
愛娘の目がハートになった事に気付いた風見の低くおどろおどろしい声と、王子様と呼ばれ目が点になった降谷の素っ頓狂な声がざわつくロビーにひっそりと響いたのであった…。
この後、王子様発言に戸惑う降谷さんの前に、空気を読まない男代表の赤井さん(軽率にそしかいして和解済み)が仕事の関係で現れ、おませで惚れっぽい娘ちゃんが赤井さんに見惚れているところを目敏く気付いて何にも考えずに素で「Oh, cute small princess」とか言いつつ娘ちゃんの小さなもみじのようなお手手にキスを落としてスパダリ発揮し娘ちゃんを呆気なく惚れさせた所、お前うち愛娘になんて事を…!と憤怒したパパと、俺の娘ではないが赤井の分際で俺の部下の娘に手を出すなんてしょっぴいてやる!と王子様()が本気を出してしまわれたのでこの続きはシュレッダーにかけられたのち焼却炉にて隠滅されました。
娘ちゃんはパパの顔で見慣れてるので赤井さんの顔を怖いと思わないよ!寧ろ好き!!降谷さんは絵本から飛び出してきた王子様だと本気で思っている。