ことば


「賁様は私の事をどう思われているのです?」

ある日のことであった。王家の屋敷の中で名前と二人で過ごしていたとき、不意に彼女が王賁に問いかけた。二人の関係を表す肩書といえば夫婦と言うのが相応しいであろう。その関係からして、その問は奇妙であった。

「…いきなりどうした」

王賁は普段お淑やかな彼女にしては珍しく積極的な様子に驚くが、その問いに答えようとはしなかった。それを見て名前は哀しそうに言う。

「私が嫁いだ時、庭に一つ桃の苗を植えてくださいましたね。私はあれから毎日水を与えております。貴方とを想って」

まだ結婚して2、3年ほどしか経過していないが、病気にかかることなくすくすくと成長している桃の木。まだ身が成るにはもう少しかかりそうだが、それでも彼女が手入れしてきた事が分かるほど立派に育っていた。

「植物は水を与えないと枯れてしまうのですよ」

「それくらい知っている」

戦場の最前線で彼が戦っている間、彼女は会えない寂しさを埋めるべく、桃の木の世話を丁寧にやってきた。

「私も桃の木と同じです。貴方がいないと、枯れてしまう」

「…」

鍛錬を重ね皮が厚くなった王賁の右手を彼女の細く柔らかい手が触れる。そして、王賁の手を自分の頬に包み込ませるようにさせた。

「賁様の愛が欲しいわ」

名前は哀しそうに言った。王賁の性格上、たとえ彼女の事を好いていても、表面上に、言葉にすることは滅多にないことだろう。名前は分かっていながらもそれがとても寂しく思えた。

「名前…愛してる」

そう言って軽く彼女の唇に口づけする。しかし、似合わないことをしたと、王賁はすぐに彼女から離れる。彼女はどんどん頬が紅く染まっていく。

「これで満足か」

王賁は自身の行動に羞恥心を感じ、この話題を早急に終わらせようとした。名前は暫くぼーっとうわの空であったが、先程の哀しそうな顔ではなく、微笑んでみせた。

「足りません」

今度は彼女の方が距離を詰めて思いっきり彼に抱きついた。彼の胸板に顔をうずめ全身で王賁を感じることができる事が嬉しくて引き剥がそうとしてもなかなか引き下がらない。意外にもしぶとかった。そして、王賁が折れた。

「…それなら俺の片思いしていた分の愛を返してもらおうか。名前、長くなるぞ」

「まだ日がっ…!あっ…」

それからは王賁が彼女を欲した。彼の片思いは長かった。ようやく彼女と契を結んだときの高揚は尋常ではなかった。その彼女から自分の愛が欲しいなど言われて黙っておける程彼の理性は保っていられない。

「愛しています、賁様」

彼女は愛をよく口にした。王賁とは真逆である。王賁に彼女が与え続けた愛情の蓄積もこれから王賁は返していかなければいけない。名前が枯れてしまわないように。