waiting for you
※主人公は黒田と同学年
『名前ちゃんにお願いがあるんだ』
そう言って卒業していった一つ上の幼馴染。そのお願いは無理難題ではなかったので、普通に引き受けた。『うん、ありがとう』と言った彼は私が絶対頷いてくれる前提で動いていたに違いない。それからの話は早かった。
「うさ吉、ご飯持ってきたよ〜…って、悠人も来てたんだ」
「名前ちゃん、俺のご飯は?」
「ある訳ないじゃん」
私は卒業する隼人くんの代わりにうさ吉の世話を託された。今日もいつも通り、人参とキャベツの芯とか食堂のおばちゃんから頂いた食材をうさ吉の元へ届けに行っていた。
うさ吉に加え、そこにいたのはもう1人の幼馴染である悠人だ。その咥えているパワーバーはご飯にカウントされないのか気になる。
「律儀だね、しっかりお世話して。俺のお世話もしてくれない?」
「まあ…隼人くんに任されたからね。悠人も小屋でなら飼育してあげるよ」
はい、あーん。とキャベツの芯を近づけるとあからさまに距離を取られた。そう言う意味じゃないと気分を害していた。
「隼人くんはいいな…」
何故そんなことを思うのか、私には分からない。家族が隼人くん贔屓なのは知っているが、それでも悠人が隼人くんより優れていないなんて微塵も思わないのに。
気づけば首を傾けていたのだろう。私の感情に気づいたのか、食べかけのパワーバーを手に持ち変えるとポカンとしていたのか、ポカンと開いていた私の方にそれを突っ込んだ。
「むぐっ」
「名前ちゃんと2年間も高校生活できて。俺は1年しかない」
口に入れられたらもう食べるしかない。水分を奪っていくパワーバーを食べるのは中々難しくて、ムグムグ言っている間に悠人は話を続けた。
「この1年だけ…やっと名前ちゃんを独占できる」
「む…もごっ」
「ねぇ…名前。俺と隼人くんだったらどっちを選ぶの?」
全て飲み込むのに時間がかかった。その間も悠人はまっすぐ私を見つめて逃さなかった。
「そんな急に言われても…」
「やっぱ名前ちゃんも隼人くんなの…?」
そんな目で2人を見た事なんてない…といえば嘘になる。隼人くんは2つ年上だから、大人の魅力があるし妹のように私を可愛がって、大切にしてくれているのが言動と行動からひしひしと伝わってくる。悠人は…悠人は、如何だろうか。
一人っ子の私には得られるはずが無かった兄弟間の絆のようなものを2人から貰ったと思っていた。
私を慕って、ちょっかい出しておちょくって、怒られるのを楽しみに待っている可愛い悠人。
クラスの同級生と仲良く話してただけで、小学校の帰り道、悔しくてベッタリとくっついてきた悠人。
私はずっと悠人から目が離せないんだ。悠人は…悠人は
「悠人は…放って置けない、かも」
「そのまま俺を手放さないで、側にいて」
そう言うと、私の肩に頭を預けた。それを跳ね除ける事なんて私にはできない。
悠人に、私は弱い。
「いい匂い…えっちしたい」
「どうしたの悠人、急に」
可愛い弟みたいな存在が、急に男性に変わった気がして、正直驚いている。今まで冗談かと思って流してきたことが、真実味を帯びてきた事に少し身の危険を感じた。
「…急じゃない」
「へ…?」
「ずっと好きで…ずっと溜め込んで…ついさっき、隼人くんに言われた通りうさ吉の世話する名前ちゃんを見て、リミッター外れた」
正面を見るように両腕を掴まれた。ダメだ、振り払えない。最後の抵抗で悠人に自分の顔を見られたくなくてそっぽを向いた。
「答えはYESですか?」
「YESって言うまで返さないんでしょどうせ」
悠人に負かされてばかりの現状が悔しくて、その余裕そうな顔に思いっきりキスしてやった。やっと、やっと悠人の顔が驚きに変わる。
やばい、悠人のこと好きかもしんない。