光るとき


「いつもお前たちは喧嘩してるな…」

食堂で聞き覚えがある声がし、寄ってみるといい歳した男女二人が互いを罵り合っていた。その男は自分の息子であると思うと山田先生はやるせなくなった。

「私だってコイツに会いたくないんですよ。たまたま食堂に出会して…嗚呼、仕事でミスするのと同じくらい嫌だ」

「先生、殴っていいですか?」

すでに拳を握りしめている名前。彼女は利吉と幼馴染の関係にあたる。仕事を探してると言っていたのを思い出し、山田先生は彼女に声をかけたのだ。思いの外、天職であったようで、小松田くんともうまくやりながら事務をこなしている。それも気に食わないのか利吉の口からは文句しか出てこない。

「私も、利吉とこんな言い争う暇ないんですよ。それにね…」

眉をしかめ、互いにそっぽを向く姿は昔から馴染みのある風景だった。何年経っても変わらない関係。この時ばかりは、忍というものを忘れて利吉が素に戻れる唯一の瞬間だと思っている。

「利吉は仕事でミスなんかしないわ。だから私と会うことが最も嫌なことになるわね」

互いに背中を向けているため利吉は名前の表情を見ることができなかった。しかし、少しばかり声色は低かったのを利吉は見逃さなかった。本心では、そんなこと思っていないものの、彼女と会うとつい喧嘩腰で話してしまうのだ。

「まあ…あれだ。言いすぎた。そこまでお前を嫌ってる訳じゃない、お前くらいだからな、こんな腹を割って話せる相手は。つい、歯止めが効かなくなる」

ちらっと振り返ってみるが、名前はまだ利吉に対し背を向けたままだった。いつもと調子が違うため、どのようにすればいいかわからない。

「…名前。悪かった。しばらく任務が続いて、その後お前の顔を見ると安心して、その、つい…」

利吉は彼女の背中に向き合った。彼女を振り向かせるために、肩を掴む。下を向いたままの彼女。もしかしたら、泣かせてしまったのではないだろうか。

「なーんてね、哀車の術」

パッと顔を上げた彼女は悪戯な笑みを浮かべる。一瞬、頭が追いつかずフリーズする利吉。

「なっ!お前、、何で忍術を知っている⁈はぁ??」

「忍たまの良い子たちに忍たまの友を見せてもらったのよ。ふふん、引っかかったわね、プロであろう利吉が。ぷぷぷ」

「前言撤回だ!お前ほんと性格悪いなっ!!」

ギャアギャアと喚き散らかす姿は子供の頃と変わらない。

変わらないことと言えばもう一つ。名前は今の今まで利吉のことを「嫌い」と一度も言ったことがないことくらいだろうか。

山田先生はそれに気づいている。いつになればお互い素直になるのか。孫を見る日はまだ先のようだと、茶を啜りながら思った。