花散
「ねえ、伊作」
屋根の上で待ち合わせ、隣に座って夜空を見上げる。体術の授業が今日は激しかったのか伊作は眠たそうだ。それなのに約束を守ろうとする姿に名前はやはりこの人を好きになってよかったと実感するのだ。肩にもたれてうとうととしている伊作を見て、独り言を言った。
「私たちは忍、くの一でしょ。だから普通の人と同じように長年寄り添い続けれるとは思っていないの」
髪を撫でる。愛おしい髪だ。少し絡まっているのは、何かの不運に出くわしたからだろうか。
「人を欺き、裏切り、闇に徹するこの生業で、貴方みたいな素敵な人に出会えたことはとても幸運、奇跡ね」
次は頬に触れる。自分の肌とは違う感触がする。綺麗な肌だと思った。
「死はいつも隣り合わせだと思う。だから、私が死んでしまっても仕方がない事。だから、あまり悲しまないで欲しい」
忍の命は軽い。だからこそ、死に対して思い詰めてはキリがない。
「だけど、忘れないで欲しい。欲張りかしら」
だいぶ伊作が自分に体の体重を預けてきた。起こさないようにさっと膝に頭がくるよう促す。また、頭を撫でた。
「…名前はもっと欲張っていい」
「あら、起きてたの」
「起きてると思って話し出したくせに」
「半分は賭けよ」
目を開けると、横になったままもぞもぞと顔を私のお腹の方に埋めてきた。それに対して包み込むように抱き返す。
「普通の女の子にだってなれる」
「…」
「…君は優秀なくの一になるはずだよ。三禁を忠実に守ってるから、僕に溺れてくれることはない」
「…」
「今のは褒め言葉だ。そんな君だから僕は付き合えたし、尊敬してる。お互い忍として高め合う関係であれた。普通なら、色に溺れてしまうところを君は上手く調節できる人だから」
お腹にうずくまっていた伊作は起き上がると互いが向き合うように座り直した。優しく私の髪を頬を撫でてまた頭を撫でた。
「忍の命は軽い。悲しいくらいに脆い。それでも僕は名前と一緒にできる限り長く過ごしたいと思ってる。もし、危険な任務に行こうとしたら無理にでも孕ませようと考えてたし」
「伊作ってちょっとサイコパス。でも、ちょっとだけ嬉しいと思ってしまった私も変わり者ね」
ふっと同じタイミングで笑い出した。目を細めて笑う名前は大人びたものの、少しだけまだあどけなさを残している。そんな彼女の笑顔が伊作は好きだった。
「僕と一緒にいれることを幸運って言う時点でだいぶおかしいんだよ」
それもそうだと頷いた。