弱み


その日、滝夜叉丸は女装して町に出る実習に備えて、女である名前にアドバイスを求めていた。

「なんたって学園一の美しさを誇る私だからな。この輝くオーラをただの町娘程度に抑え切れるか不安だ」

「確かに、滝夜叉丸はお城の姫君の方が似合うかもね」

この自慢話についていけるのは、名前の面倒見の良さが影響している。もともと、女子からの人気が高く、人の話を聞く姿勢や共感、アドバイスには定評があった。世に言うイケメン系女子というやつだ。

滝夜叉丸と名前は割と仲が良い。滝夜叉丸にとって彼女は苦い顔をせずに話を最後まで聞き、それに共感してくれる存在だった。いわば彼女と話す時間は心地が良いのだ。

「今のも似合っているけど、口紅はこの色にしてみたらどうだ…?ほら、綺麗だ」

この会話をどこでしていたと思う。

そうだ。昼過ぎのあまり混んでいない食堂である。

運悪く食堂を利用しにきていたくのたまの後輩は名前のイケメン発言に頰を赤らめて、滝夜叉丸を羨ましがる。

「確かに…って、私を美しくしすぎたらダメだ。町娘と言っただろう」

「ああ、そうだった。綺麗なものには更に磨きをかけたいタチなものでね。立花先輩にもこの前同じことをしてしまったよ」

男子にとって、過剰に煽てる事なく評価して、アドバイスをくれる信頼できる女子といえば、思い浮かべるのはまず先に名前の名が上がるだろう。先輩にまで名前の名が知られていたことに驚きもあったが、自分以外を綺麗だと評する彼女に初めて心臓の下あたりに不快感を覚えた。

「…めだ」

「ん?どうした滝夜叉丸」

「ダメだ。私が名前にとって1番美しくなければ嫌だ」

ぽかん。名前にして間抜けな顔をしていたと思う。滝夜叉丸は彼女の豆鉄砲を食らったような顔を見るのは初めてだった。

「ふふっ!」

「な、何がおかしいんだ!」

その後、大笑いし始めた。しかしながら、口元に手を当てることを忘れない彼女の女性らしさというか、育ちの良さにも目がいってしまう。

「随分可愛らいこと言うんだなぁと思って。本当に年頃の町娘みたいだよ。ふふっ」

「わ、私は…っ」

町娘を演じているわけではなく本心で言っているというのに。もどかしい感情をどうやって処理したらいいか分からず、拳を握る力が強まる。それを名前は見逃さなかった。

「心配しなくても、私は滝夜叉丸が1番綺麗だと思ってるよ」

「ほ、本当か?」

「うん。ホント、ホント」

だから自信を持っていってらっしゃいと足速にその場から滝夜叉丸を追い払った。残ったのは、後輩のくのたま達と、乱太郎、きり丸、しんべえのお決まり3人組である。

「名前先輩すごいっすねー。お世辞でも俺なら言えませんよ」

「そうですよ。それにセリフが男女逆です。滝夜叉丸先輩が乙女になってました」

近くにきてそのように名前の言動を讃えた。しかし、彼女は黒く長い髪の先を弄び目線を下に泳がせた。

「お、お世辞じゃないんだ」

「「…え」」

「私は本当に滝夜叉丸のことが…」

「「嫌だぁ、それ以上言わないでくださ〜い!」」

くのたま達は涙目で抱きついてくる。尊敬できて、成績も優秀、そして行動がイケメンな、こんな大好きな先輩を滝夜叉丸に取られるのが許せなかったのだろう。見る目がない、とポコスカ名前を叩く。乱きりしんも名前には勿体無いからやめとけと促してくる。

「惚れた弱みってやつだよ」

「「わーんっ!!名前先輩ぃぃぃ」」

滝夜叉丸はこのことに気づいているのだろうか。名前は思いは秘めておくつもりである。忍者の三禁の一つである色で彼の妨げをしたくなかったから。

だか、これから思いもやらぬ展開が待っているとは誰も知らない。