利害


私のお隣さんは変わってるんです。

どこかで教師をやってるみたいで、身寄りのない生徒とたまに家に帰ってきては、大家さんに怪しまれる日々。大家さんはたまに土井さんのことを忍者ではないかと疑うけれど、そんなことないと思う。

だって、忍者って血も涙もないイメージだけど、土井さんは優しい人だから。あとちょっとハンサム。

そんな私の職業は薬売り。あまり高価な薬はないけれど、庶民的で効き目も割とあると少しずつ評判になってきている駆け出しの薬売り。

ある日、きり丸くんが頬に擦り傷があったから手当てした。(タダって言ったら目をお金にして飛びついた)

「名前さんはいい人いないんすか」

少ししみるのか眉を顰めながらそんなことを言ってきた。私は少し考えてみたが、そのような人は浮かばない。首を横に振るしかなかった。

「この前、年頃の娘が結婚もせず一人で暮らしてるなんて怪しいわ。本当は呪術師なんじゃ…?って大家さんが」

「そ、そんなぁ…。ていうかきり丸くん、大家さんのモノマネ上手だね」

彼の高いクォリティのモノマネに賞賛している場合ではないのは分かっている。しかも、この前、大家さんったら私の薬買ったばかりじゃないか。土井さんを疑うだけでは物足りず、私まで疑われてしまうとは悲しいものだ。

また、別の町へ移るしかないのか。そう思うと、今回は少しだけ寂しかった。

「でも、大家さんみたいな事言う人、何処にでもいるから。引っ越しどきなのかもね」

「えっ。名前さん引っ越すの?」

やっと、町に馴染んできたと思ったけれど、そう思っていたのは私だけだったんだろう。このような事は慣れっこだった。

「そうなるね。あ、噂が本当だからじゃないよ」

「分かってますよ。俺は名前さんはただの薬売りだと思ってるし、タダで色々くれるからいなくなるのは困っ…寂しいなぁ」

ポロッと本音を出した彼はまだ子供だ。追求しないでおこう。これが大人の優しさというものだ。手当も終わり彼の頭をくしゃっと撫で回す。それくらいいいだろう。

「そう思ってくれて嬉しい。私も土井さんが忍者なんて思ってないし、この町も人も割と好きだったから寂しいよ。もちろん、きり丸くんに会えないのも」

彼は目を泳がせたが、特に私は気にしなかった。住み始めて日が経ったから、近くの山から集めた薬草もだいぶ溜まっていた。けっこう住んでいたんだと実感する。

「疑われているもの同士、くっついちゃえばいいと思いません?」

「ほぉ…え?」

「こらっ!きり丸、また名前さんのウチに入り込んで…すいません、いつも」

そこに当事者も現れてしまったから、私は珍しくも慌てていたと思う。きり丸は、かくかくしかじかと説明すると、拳骨を食らってしまい、痛そうなたんこぶが浮かび上がった。

「でも、悪い話じゃないですよね。私も土井さんも、身寄りができることであらぬ噂から解放される…」

こっちはビンゴなんですけどね、って名前に聞こえない声で呟いたきり丸は今度は足を踏まれていた。

「家賃も同じ部屋にするなら折半に…」

「もう結婚しかないです、先生」

きり丸のプッシュがさらに激しくなった。土井先生は困惑気味だ。

「私の素性も、知らないでしょう…?」

「これから知っていきましょう。土井さんも、私のこと知らないですよね」

「好きな人と結ばれるのが女性にとって幸せなんじゃ…」

「私、合理的なんで。あ、しかも、土井さんのことカッコいいと思ってましたし」

「「え」」

きり丸くんと土井さんの声が重なる。土井さんが驚くならまだしも、きり丸くんは土井さんに失礼だ。

「変わった方だと思ってましたが…ここまでとは。いいんですか、本当に」

「あはは。私も同じこと思ってましたよ。もちろんです、互いの利益から始まる恋だってあっていい」

むしろ利益考えずに結婚した人の方が少ないのではないだろうか。誰しも世間体や年収肩書きに重きをおく者の方が多い。そう思うと私たちも妥当なのではないだろうか。

『よかったっすね、片想いが電撃婚になって』

ぼそっと何かを耳打ちしたきり丸くんは今度は口を塞がれてしまった。土井さんは笑って誤魔化している。

「これからよろしくお願いしますね、半助さん」

私だって初めてかっこいいと思った男性と結ばれるって思うと、結構ドキドキしてるんですよと、きり丸くんに聞こえないように土井さんに伝えると顔を赤らめたから可愛いと思った。

そして、すぐに彼が忍術学園で教師をしているということが発覚する。