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青葉城西高校と言えば県内では名の知られているバレーの強豪校だ。今年は主将であるセッター・オイカワトオル≠ニいう選手を主軸とした超攻撃型のチームを作り、全国出場を狙っているらしい。
そんな県の4強に名を連ねる学校と練習ではあるが試合ができる。日向くん達の速攻がどれだけ通用するのか、それを直で体験できる最大のチャンス。
………なの、だけど……。

「すみません田中さん、すみません」
「いいっつってんだろうが!そんなことよりお前は大丈夫なのかよ?!」
「ハイ…途中休んだし…バス降りたら平気です…」
「そうか!ならいい!!」

青葉城西高校の校門前。ついにやってきた練習試合当日に目の前に広がっているのは田中さんに深々と頭を下げる日向くんの姿。そして田中さんの手にあるのは日向くんがバスの中で吐いてしまったモノに塗れたジャージ…。
高校に入って初めての試合(練習試合だけど…)、試合経験の少ない日向くんはそのことに緊張して昨日からおかしな言動と行動を繰り返しているし、影山くんは逆にそんな日向くんに対して無意識にプレッシャーを掛けるようなことを言うし、蛍も半ば面白がってそれに乗ったりする…ことは少なかったけど。とにかく、色々なことが重なって混ざり合って、行きのバスの中での大惨事となった。

「今日の試合はお前の働きにかかってるかんな!?3対3の時みたく俺にフリーで打たせてくれよ!?」
「はっ、ひい!」

と、日向くんを鼓舞しようとして肩を叩きながら言った田中さんの言葉に日向くんは意味を成さない声を発する。菅原さんが慌てて止めるけれど、日向くんは既に緊張で身体を強張らせていた。……えっと…これは……。

「トッ…トイレ行ってきますっ…」
「上の次は下か!忙しい奴だな!」
「アイツ…また…!情けねぇな!!一発気合い入れてーー」
「何言ってんのお前!?バカじゃないの!?そういうのが効くタイプとそうじゃないのが居るでしょ!?」
「やってみないとわかりませんよ!」
「田中この単細胞押えろ!」
「オス!」

…どこかでカラスがこの様子を見て鳴いているのが聞こえる。目の前で繰り広げられる収集の着かない事態を見つめ、小さく小さく溜め息をこぼした。

「深い溜め息吐きすぎると幸せ逃げるよ」
「…意地悪い笑顔をしてる月島くんには言われたくないです…」
「辛気臭い顔よりよっぽどいいと思うけどね」
「はいはい…」

頭の上から聞こえてきた声はどこか生き生きとした響きを持っている。…ほんと、人をからかう時が一番楽しそうな顔をするんだから、ある意味才能だと思ってしまう。
このあとも日向くんに余計なことを言わなきゃいいけど…、なんて、親的な目線で蛍を思い本日二度目の深いため息を吐いた。
その間に向かう先は青葉城西…青城≠フ第3体育館だ。
間違いなく県の四強に入る青城との練習試合。私の気持ちは体育館に向かう足取りとともに高揚していくのだった。

***

「挨拶!!!」
「お願いしあーす!!!」

烏野バレー部のその声は体育館の喧騒の中に掻き消された。
自分達の学校よりも倍以上も広い体育館。並べられたコートの数も多く、何よりもそこですでにアップをしている選手の数と身体の大きさも烏野の倍以上もあった。

「でっ…でかいっ…!体育館も……人も!!」

日向くんの言葉がまさに私の気持ちを代弁している。
いつも練習している烏野の第二体育館も充分な広さを持っているけど、青城の体育館はそれよりも随分大きい…さすが私立の強豪校。

「…守備も攻撃も全員の能力が平均して高いのが青葉城西だ。他校行ったらどこでもエース張れる様な奴が揃ってるらしい」
「ブロック強力で有名だしな…」
「どうしたんスか二人とも〜!ブロック引っ掻き回す為の日向じゃないですか〜!なあ!」

弱気発言ともとれるような





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