03



「…おーし、今日はここまで!!この後電気の点検入るから自主練は無しな!!1、2年で片付けで3年でモップだ」
「おす!!」

はじめちゃんの掛け声に綺麗に揃った声が響く。各々が指示を出された通りに動き出し、マネージャーである私も集められたビブスとスクイズボトルを籠に入れて体育館裏にある水道へと向かう。
青城の第3体育館は殆どバレー部専用になっていて、この水道を使うのも基本はバレー部のみ。その中でもここに来る頻度が一番高いのは私であって、唯一部活中に一人になる場所でもある。
いつからあるかわからないバレー部専用の旧型の洗濯機にビブスを放り電源を入れる。その間に空っぽのスクイズボトルを一つづつ開けて中を洗いひっくり返して再び籠の中へ。約6年間のマネージャー歴でその動作は考えなくても出来てしまうくらい身体に染みついているもの。…だからこそ頭の中では全く別の事を考えられてしまうのだった。

「お前、及川のこと好きだろ」

脳内に再生される昼休みに放たれた花巻のあの言葉。確かな響きを持ったそれには迷いとか、疑問とかそういうものが一切感じられず、彼は本当に確信してあの言葉を言ったんだとわかっている。
けど…けれど、どうして…。

「どうしてあんなこと言われたんだろう…」
「それって昼休みのこと?」
「ぎゃあ!!」

一人だと思っていたところに突然聞こえた低い声に思わず悲鳴を上げる。手元にあったスクイズボトルも勢いよく落としてしまい、カラカランと虚しい音が響いた。
跳ねあがった自分の心臓を感じたまま、振り返ればタオルを頭に羽織って驚いた表情をした花巻がいた。
落としたボトルが転がってしまい、それを拾いながら花巻が私との距離を縮める。

「は、なまき…びっくりした…」
「『ぎゃあ!!』ってお前…っ、女の出す声じゃねぇな」
「う、うるさい!!」

半分笑いながら差し出されたボトルを受け取り、先ほどの失態を揶揄われて顔が熱くなる。そのまま少し乱暴に洗い物を再開すれば、私の隣にぴったりとくっ付くように花巻は無言でその場に立っている。
ガチャガチャと私が洗い物を続ける音だけが暫く響き、私達の間には何とも言えない気まずい空気が流れた。

あの後私は花巻の言葉に何も答えず、無言のまま教室を離れて昼休みを過ごした。
おかげでお弁当を食べ損ねるし、五限の授業は空腹と隣の花巻からの視線から逃れるので集中できないし、放課後の部活はなるべく溝口コーチの傍に付いて部員達との距離を置いた。(及川は今日の部活は強制的に休みにさせた)
…その間もずっと花巻からは突き刺さる様な視線を感じていたのは正直なところ。試合形式の時以外は何か言いたげに私を見ていたのはわかっていたけれど、それがまさかこんな所にまで追いかけてくるなんて…。
どれくらい経ったのか、気が付けばすべての洗い物が終了してしまい私の仕事が終わっていた。

「告白しねーの?」
「へ?」
「だから、告白!及川にしねーの?」

やっと花巻から発せられた言葉は突拍子の無いもので。驚いて隣の彼を見上げると、未だにタオルを頭に掛けたままで表情は読み取れなかった。

「……しないよ。だって及川に告白する理由がないし」
「なんでだ?好きなんだろ、アイツの事」
「いや、そんな訳…あ、お昼休みに言ってたやつ?あれは急に花巻が変な事いうからビックリして、気が付いたら飛び出してたっていうか…だから、あれが図星だった訳じゃないんだよ?」
「………」
「だから私が及川を好きとか…そんなこと、あり得る訳…ない」




[back][top]



Copyright © 2016 四月一日 All Rights Reserved.

ALICE+