01



私が彼と初めて出会ったのは、三歳の時の誕生パーティー…という名の私のお披露目会の事。
自分の瞳と同じ色で揃えた青い色のドレスは、この日の為に両親が特注した最高級品。幼かった私にはわからなかったけれど、あれは両親が張った精一杯の見栄の塊だったのだろう。
いつもより気合いを入れた母親の服に化粧。父親も、何度も何度もクルクル曲がった髭を撫でて来賓客に私を紹介している。
招待している人達には、みんな共通して私と近い年頃の男の子がいた。

『これはこれは…とても美しい娘さんで』
『お父上に目元が似ていらっしゃいますな!』
『ははは、いやいや…どうですかな?ご子息達のお嫁候補に…』

成り上がで貴族になったばかりの両親は、その地位を安定したものにするため私を名のある貴族の子息と結婚させようと来賓客に私を売り込むのに必死だった。
助けを求めるように母親の腕にしがみ付いて逃れようとしたけれど、父親と同じように必死な母親は私の姿を無理やりに押し出して来賓客の前に差し出すのだ。

まるで品定めされるように向けられる視線。

初めて出会う両親以外の大人に、幼かった私はただ恐怖を抱いたことを覚えている。
足が震え涙が溢れそうになったとき、また違う来賓客から声を掛けられた。

そして私の視界に、小さな足が現れる。

ゼロ距離に現れたそれに驚き顔を上げると、目の前にはまた私と同じ年齢くらいの男の子。
貴族らしく華やかな青い上着に胸元を飾る白いスカーフ、頭にはシルクハット。
先程まで散々相手にしていた他の貴族の息子と同じような格好だったのに、ただ一つだけ、彼は他の人とは違ったのだ。

驚くほどに、その瞳は美しかった。

真っ直ぐ射貫くように向けられた視線に絡めとられたように、私と彼の視線はかち合ったまま逸らすことが出来なかった。

『これはアウトルックさん!こちらはご子息様で…?』
『名はサボという。どうぞお見知りおきを…サボ、ご令嬢に挨拶しなさい』
『……サボ、といいます』

頭上で交わされた父親同士の会話の後、目の前の彼から放たれた初めての言葉。
視線は逸らされないまま、私はまるで魔法に掛けられたかのように固まってしまい暫くその場を静寂が漂った。
痺れを切らしたように父親が私の背中を見えないように叩き、私に改めて挨拶を促した。

『……ミョウジ……です』
『…“ミョウジ”』

消えるくらい小さな声で紡いだ名前を、彼は繰り返す。

その時初めて、自分の名前に意味が生まれた気がした。
指の先まで血が通い、胸が一杯になるまで空気を吸い込んだような…初めて、“生きている”と感じたのだ。




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