「安心してください、犯人は無事逮捕しました。」

 目を覚めたらベッドに横たわっていた。何が起きているのか理解出来ないまま目の前でにこやかに頭を下げる警察と名乗る人物はそう言った。そして私の周りを囲む見知らぬ人達は眉をひそめ心配そうにしている。

 一体これはどういう状況なのだろう。

 きっとここは病院なのだろう、覚束ない頭でそれだけはわかった。警察は「では私はこれで」と退散し、部屋には自分と知らない人たちが残された。そんな状況にどうしたらいいかと困っている私にメガネをかけ赤い蝶ネクタイをつけた少年が「お姉さん大丈夫?」と心配そうに話しかけてきた。そんな少年に大丈夫、と返せば少年はホッとしたように良かったと笑った。それにしても既視感ある少年だな、コスプレだろうか。見た目は子供、頭脳は大人という設定をコンセプトにした漫画の主人公そっくりだ。あの漫画弟大好きなんだよね。

 まじまじと見つめていたため少年は「え、なに。僕の顔何かついてる?」と誤解を生んでしまった。人を観察する癖治そう。

 少年の側にいた高校生ぐらいの女の子が何故私がベッドに横たわっているのか説明してくれた。

  時間は昨日まで遡り、午後夕暮れ時に起こった。

 少年の側にいる女の子は蘭という名前で、…あの漫画のヒロインと同じ名前だ。まあそこは置いといて、その蘭ちゃんと少年は買い物へ出掛けたところ路地裏で頭から血を流して倒れている私を発見し蘭ちゃんは病院に電話をかけ、少年は警察に通報。犯人はそれから2時間後には逮捕できたようだ。私を襲った理由は相手は誰でも良かったとのこと。こわ。

「そっか、じゃあ2人の迅速な対応も私の今に繋がっていることになるんだね。本当にありがとう。」
「そんな!人として当たり前のことしただけですから!」

  だから頭上げてください!と頭を下げる私を見て慌てる蘭ちゃん。出会って数十分だけだがなんて可愛いんだろう。

「そうだよお姉さん。僕たちは人として当たり前のことしただけだもん。ねっ、蘭姉ちゃん!」

  なんかよくわからないが少年はどこか胡散臭い。

  すると病室にノック音が響き、はいと返事すると白衣を着た人が開いた扉から見えた。多分ここの先生なのだろう。

「目が覚めたと聞きましたが、体調は大丈夫ですか?」

 殴られた頭は検査の結果特に異常は見つからず退院は今日にでもしてもいい、と説明を受けたので今日退院することを決めた。

「では、荷物をまとめ次第1階の会計でお金を払ってください。お大事に。」

  病院の先生が帰り直ぐに蘭ちゃんが良かったですね!と自分のことのように喜んでくれた。うんうん。可愛いな。あ、一応親に連絡しておこう。

 側に置いてあった自分のバッグからスマホを取り出し、蘭ちゃん達に親に連絡入れることを伝えスマホをタップしコール音を鳴らす。

−−しかし、出ない。

  何度電話を掛けても『この電話番号は現在使われていないか、もしくは電波の届かないところにあります。』とアナウンスがなるばかりだ。

  しかし心配性の母のことだ、1日連絡を入れずに家に帰ってこなかった娘に電話やメールをしないでおくだろうか。それもやっと掛かってきた娘からの電話を出ない、なんて事あるだろうか。

  試しに弟や父、そして友人達にも掛けてみたがやはり同じだった。

  おかしい。何が起こってるんだろう。

  私の様子が流石におかしいと感じた少年がどうしたのかと問いてきたので電話が誰にも繋がらない、と返した。

  少年は驚きこの病院の電波が原因ではと懸念しスマホを取り出してどこかに電話を掛ける。

「あっ、出た。え?いや、用は何もねえよ。たださっき電話した時に話した女の人が色んな所に電話掛けてるんだけどどこにも繋がらなくてよ。だから俺が病院の電波に問題が無いか調べるために電話しただけで…ああ、大丈夫みたいだな。」

  先ほどの可愛らしい少年は何処へ。小さく話す少年の声はワントーン下がり子どもらしからぬ口調で話し、そして話す内容もまるで…いやいや、そんなことあるわけがない。

「お姉さん、電波は問題ないみたい。僕のスマホは電話繋がるし。」

 もう怖いんだけど、この子。

「家族への連絡は後にするよ。蘭ちゃん、この病院の住所教えてもらってもいい?」
「はい、調べるのでちょっと待ってくださいね。えっと、東都警察病院だから…。」

−−待って。

「ゴメン、さっき何病院って言ったの?」
「え?東都警察病院ですけど。」
「東都?東京じゃなくて?」
「東京?ごめんなさい、どこなんですか?」

  急いでスマホを取り『東京』を検索エンジンにかけたがひとつも引っかからず、何回も何回もかけたが引っかかることはなかった。しかし『東都』と調べれば引っかかり1番上の項目は『東都水族館、観覧車壊滅。原因は一体なにか−−。』と出てきた。

 水族館、観覧車。赤井さんと…誰かが観覧車でどうたらこうたらなんて弟が興奮しながら昔語ってたような。違う、それは今関係ない。今はこの状況をいかにどうやって乗り切るかが重要で…もうまさしくあの漫画だもん。ということはこの少年は。

「そういえば名前聞いてなかったね。君の名前は?」
「僕は江戸川コナンだよ!」

 『死神』、名探偵コナンを読み主人公江戸川コナンに対しての感想はこれひとつだった。今、その『死神』が私の目の前でにこりと微笑んでいる。

「−−ははっ。」

  勘弁してください。