事件から今日で早1週間が経とうとしていた。退院した日はスマホを使って覚えてるだけの名探偵コナンに出てきた単語を検索にかけまくり自分がいる世界は自分が元いた世界ではない"名探偵コナン"の世界だとわかった。

  2日目は自分が所持するクレジットカードや通帳、免許証など自分の身分が証明されるものが使えるのかどうか調べた。結果は全滅。やはり私の戸籍はこの世界にはないということがわかった。

  3日目は今回の事件が殺人未遂となり賠償金が払われることになったので弁護士を探していた矢先、蘭ちゃんに遭遇しこのことをチョロっと話したら敏腕弁護士を紹介するとのこと。どうやったらそんな人脈が出来るんだろうか。

  4日目は街を散策していたら死神ことコナンくんに出会ってしまった。案の定殺人現場に居合わせてしまい事情聴取で夕方まで捕まってしまった。

 5日目はずっと探していたアルバイト先が見つかった。戸籍を持っていなかったのもあり探すのに骨が折れた。ちなみにカフェのバイトだ。しかも住み込みで住む場所も探す手間も無くなった。元々コナンくんに勧められたカフェのバイトもあったのだがご丁寧にお断りした。コナンくんに勧められるバイト先なんて悪い予感しかしないからだ。ちなみにバイト先の名前は『アイリーン』だ。流石名探偵コナン。『ポアロ』同様シャーロックホームズ関連の名前だ。

  6日目、とうとう少年探偵団の3人と初対面。なぜか絡まれ動けないでいると途中からコナンくん、そして灰原哀ちゃんも参戦。結局バイトギリギリの時間まで一緒にサッカーをやってしまった。お陰で筋肉痛で身体が悲鳴を上げている。

  そして、今日。

 買い物帰り暗闇を歩く私の後ろを付き纏うかのように聞こえる足音が響いていた。近道だから、という理由で人気のない道を選んでしまったのが裏目に出てしまったらしい。住居を知られると余計問題が悪化すると踏まえわざと見当違いな道を選び進んでいく。勿論ストーカーの気配は背後に感じるままだ。

(ダメだ。埒あかないから走ろう。途中人がいたらその人に助けを求めよう。)

 突然走り出した私に驚いたのかストーカーの走り出す音はワンテンポズレたのがわかった。

  元々走るのはあまり得意ではないからすぐに息が切れて心臓が痛い。だけど今は走ることしか考えられないのだ。

  かなり走ったと思う。しかしストーカーが付いてきていた。

(もうダメ、足が…。)

「わっ!」
「おっと。」

 道を曲がった瞬間誰かとぶつかってしまった。いや、やっと誰かと出会ったというべきか。

「助けてください!ストーカーに追われているんです!」
「…僕の後ろに。」

  言われるがまま背後に隠れ、男の影から後ろからついて来ていたであろうストーカーの姿を捉えた。息を切らし、「退けよ!」と私を庇う男に怒鳴り目は眼光が光っていた。

  ストーカーの怒鳴り声に驚き肩をビクつかせたのに男は気づいたのか、「僕が必ず助けます。貴女は安心してそこで見ててください。」そう言って男の右手は私の左手を握ってくれた。小さい声はとても優しさを含んでいた。

「彼女が怯えています、やめていただきませんか。」

 もしそれでも続けるのであれば、少し高めだった声色がワントーン低くなる。

  ストーカーは男の威圧に圧倒されたのか舌打ちをし、どこかへ去っていった。

  緊張感が緩んだ瞬間足の力が一気に抜けその場に座り込んだ。そして自然に出てくる大粒の涙が頬を伝う。

「…こわかった。死んじゃうかと。」

 男は私の背中をさすりもう大丈夫ですよ、と落ち着かせてくれようとしてくれる。その優しさが今の私に心地良くて涙は溢れるばかりだ。本当に、本当にこの人に出会って良かった。

(青い…。)

  初めてよく見る彼の瞳は月の光で青々しく輝いていた。それは今まで見てきたどんな瞳よりも綺麗で。そして美しい。それも髪も金色で、瞳同様月の光で輝いていた。

  初めてこんなにも男性を綺麗だと思った。

「僕でよければ家まで送ります。」

 涙が止まり始めた頃、彼はそう言った。勿論お言葉に甘えて住んでいるカフェまで送ってもらうことに。

  肩を並べて歩いている間、彼は私が不安にならないようにと会話を途切れさせず先ほどのことがまるでなかったように接してくれた。

「ここです。本当にありがとうございました。」
「気にしないでください。あと、これを貴女に。」

 彼は 財布をお尻のポケットから取り出し、財布の中から1枚の紙を差し出す。

「僕の名前は安室透と言います。探偵をやっていますのでもしまた何かありましたら気軽にご連絡ください。お力添え出来ると思います」

 それに加えて「しばらく外には出ない方がいい」や「人気のない道を女性1人が歩くのは危ない」など助言をした彼はまた闇夜へと消えてしまった。

 彼が帰った後私はすぐさま部屋に転がり込み布団に倒れこんだ。

「かっこよかったな。」

 金髪の髪に青い瞳、そして褐色の肌。日本人離れした面立ちに服装は白のシャツに黒のベストにタイを締めるプレッピースタイル。とてもお洒落で顔もイケメン、中身もイケメン。でも、

「なーんか見たことあるんだよなー。」

  あんなイケメン1度見たら中々忘れないと思うのだけど。少し考えたが記憶を辿る体力もないので諦めてそのまま眠りにつくことにした。

(安室、透。)

  彼のことを思いながら。