五番目くらいにキスしにきてよ




ブルーロック夢
潔世一
幼馴染設定

***

恋愛ってダルい。
だって、たくさんの面倒な努力をして付き合えたならそれで十分ってところをさ、彼が別のものを中心に据えていたら「私を一番にしてよ!」って喚き散らすなんて、正直言ってクソだと思う。逆も同じだ。そもそも、人間なんて許容と諦めでしか生きていけないんだから、本当に理解して付き合うなんてことできないんだと思う。それでも諦めが悪いのが人間のサガで、認められないことをたくさん喚き散らして、そうして別れてしまうのだ。
思い通りに行くことなんてないし、わがままな心のせいでこっぴどく振られて泣き寝入りなんてザラ。ホント、碌なもんじゃない。だからダルい。
そんな擦れた考えをする私だけど、実は現在進行形で恋をしている。絶対私を一番にしてくれない男に。茶番だな、とは思うけど、それでも好きだった。でも他の女と違うのは、私を一番にしてくれない彼が好きだ。たった一つの、サッカーだけが大切な彼が、好き。
一番にしてくれなくていいから、それでも中間くらいの、そう。あなたにとって五番目くらいの女になりたくて、私はずっとあなただけを見つめ続けている。

【五番目くらいにキスしにきてよ】

潔世一という男の子は、私の家の隣に住んでいる。俗に言う幼馴染の関係性である彼と私は、まるで捻れて紡がれた糸のようにそばにいる関係だった。それは今でも変わらなくて、彼の部活が終わるまで待って、わざわざ一緒に帰るくらいには仲がいい。そのせいでよく周りからは夫婦扱いされたりするけれど、それでも構わなかった。一番になれないんだから、これくらい良いでしょなんて、内心ふんぞりかえっていたのだ。
潔世一、よっちゃんは昔からサッカーのことばかりだった。幼稚園バスでの話題はサッカーの試合についてだったし、小学校に入ってからサッカーを始めていたし、中学高校もサッカー部に所属していた。よっちゃんはノエル・ノア選手が大好きで、尊敬していて、いつかこんな選手になりたいと切望していて。よっちゃんの世界の中心はサッカーと、ノエル・ノア選手だった。
多分だけど私の一番の不幸は、そんなよっちゃんのことを愛してしまったことなんだと思う。
気づいた時にはよっちゃんが好きだった。私が見つめると照れたように笑ってくれて、手を差し出してくれる。どれだけサッカーに夢中でも、私と一緒に帰ってくれる。大好きなことを私に伝えようとしてくれる。そんな優しいよっちゃんが大好きだった。
でも、その感情を恋と名づけてしまってから、苦しさが増した。砂糖多めのココアから、ツンとすましたジンジャーエールになった。だって、よっちゃんは私を一番にしてくれることはないんだもの。彼の世界の中心はサッカーで、ノエル・ノア選手で、あと原理的におばさんおじさん、つまりはよっちゃんの両親に私は勝てない。一生、私はよっちゃんの心の中に入れない。線引きされたそこを飛び越えて、あなたを愛してるんです付き合ってくださいって、言えるならこんなに苦労してない。
別に一番になりたいわけじゃない。私は、サッカーが大好きで、フォワードとして頑張ってるよっちゃんが好き。サッカーのことはよくわからないけど、フィールドの上でゴールを決めてる、よっちゃんが大好き。私はよっちゃんを世界で一番好きだけど、それはサッカーしているよっちゃんでもあるから、一番になれなくていい。その次くらいにいるだろうノエルノア選手だって、よっちゃんの両親だって、別にいい。
でも私は、それ以降の、五番目くらいにいたかった。五番目の女。彼が、たまには心を傾けてやるか、って思うくらいの立ち位置の女。それ以降の女になるのは、嫌だった。私はよっちゃんの五番目の女になりたかった。
青いまんまるの瞳が私を射抜く瞬間が好き。サッカーをしている時に、時折見せる傲慢な顔が好き。大好き。
でも伝える前に、彼はブルーロックという、サッカーのストライカーを育成するところに行ってしまった。そうなると連絡も取り合えない。だから私が最後に彼を見たのは、勝てば全国ってところで負けてしまって、呆然としているよっちゃんの後ろ姿だった。

そんなよっちゃんが、帰ってきた。
U20での活躍は私も見た。すごかったと思う。本当に。きっと彼はこのまま、突き進んでいくんだろうと思えた。それと同時に、この思いもさっさと捨てなきゃ、と決意した。
彼のプレーは素晴らしかった。背中も、あの時より大きく見えて、キラキラしていて、眩かった。
だから、だから。
「よっちゃん、好きだよ」
そうやって口にして、早く離れたかった。
ぽかんと口を開けたよっちゃんが見ていられなくて、そっと口元を歪めた。きっと、君は気づかなかったよね。鈍くて後ろを振り向くことをしなかったから、君はサッカーだけが全てだったから。その話を聞くたびに、心が痛んでいた私のことなんてきっと気づきもしなかったんだろうね。
「は、ぇ、?」
「ごめん、こんなこといって。でも、好きなの。よっちゃんのことが、世界で一番好きなの」
混乱できゅっと眉根を寄せた、世界で一番憎らしくて愛しい顔を見つめた。ああ、これでもう、彼と会うことはないかもしれない。私は彼の一番にはなれない。彼の身内にだけは、絶対に。
だから五番目なんて言って、彼のサッカー関連や身内以外での一番目は譲りたくなかった。譲りたくなかったけど、彼は私がいなくたって生きていける。わかっていたはずのそれを、思い知らされた。だから、このまま捨てたかった。私の一番にしてほしいなんて悍ましい未練を、放り出してやりたかった。
「、付き合ってください、なんて言えない。よっちゃんの邪魔になるから。ちゃんと忘れるから、ちゃんと好きじゃなくなるから、今はまだ、好きでいさせてくれない?」
そうして穏やかに、なるべく穏やかに努めて笑う。よっちゃんの顔は、何故だかぼやけてしまって見えなかった。
早く立ち去ろう、そう思って踵を返すと、くん、と焦ったように右手を引かれた。
「ちょっと、待てよ」
「なに、私急ぐから」
「なんで何も言わせてくれないの?俺の返事いらない?」
意味わかんない。この鈍感男。わたしの言葉聞いてないの?思わず呆れてしまう。
「なんで返事なんかするの。私忘れるからって」
「いやそうじゃなくて」
「なに?うざいってこと?サッカーの邪魔はしないよ。よっちゃんの一番になりたいわけじゃないし」
「は?っておい、きけよ、」
「もういいじゃん、私はよっちゃんじゃなきゃダメだけど、よっちゃんは私じゃなくてもいいでしょ?私はどれだけ頑張ってもよっちゃんの一番になれないのに、こんなに好きでいるの、疲れたよ」
「きけよ!」
びく、と肩が跳ねた。それくらい大きな声だった。恐る恐る顔を振り返れば、少しだけ怒ったような、泣きたいような顔をしたよっちゃんが、そこにいた。
「やっと、こっち見たな」
「……」
「あのな、俺は確かに、サッカーが好きだよ」
「……ぅん」
なんて事言うんだ、振ろうっていうのか。くさくさした気持ちで半ば投げやりに返事をすると、続きがあるから、と苦笑される。
「サッカーが好きだけど、でもその次にお前が好きだ」
「え」
「それじゃあ、答えにならないか?確かに俺はお前を一番にしてやれないけど、二番目に好きだよ。だから、お前の恋心、捨てないでくれっていうのは、わがままか?持っていたまま、俺と一緒にいてほしいっていうの、だめ?」
信じられなかった。夢なんじゃないかと思った。けれどうそだ、なんて口に出していっても、目の前の彼はぼやけたりなんてしない。
「嘘なわけねぇじゃん。そんなタチの悪い事言わねーよ」
そういって、よっちゃんは私の手を握りしめる。本当?本当に私が好きなの?そうだとしたら嬉しくて嬉しくて、仕方なかった。
付き合ってくれる?そう優しく降ってきた言葉に。さめざめと涙を流して、それでも伝えた。
「……私のこと、一番にしなくていいよ。二番目じゃなくてもいい。だから、だからね、五番目くらいに、キスしにきて」
ぼろぼろと震えた言葉に、よっちゃんは眉根を寄せて、困ったようにはにかんだ。
「何言ってんだ」
「っ」
「俺が勝ってキスしに行くのは、お前が最初で、最後だよ」
そうして交わした口付けは、しょっぱい涙の味がした。

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