抱きしめたいのだ、ファムファタル


金塊を溶かして薄めたようなカチリとした印象を抱かせる金髪。ガーネットのように深く濃い赤眼。まろやかなミルクを伸ばしたように真っ白な肌。小さな顔に収まるのは、蠱惑的で肉感的な口紅要らずの真っ赤な唇とつんとすました小さな鼻。月夜で花が咲くような淫靡さと、泉で男を引き摺り込んで笑う妖精の悪辣さを煮込んだような美貌を持った少女。それだけならばまだいいが、ガサツで馬鹿で考えなし、わがままという最悪な女だ。おまけに寂しがりで、時折消えてしまいたいとでもいうような大人びた顔をして、いつか本当に自分の掌から滑り落ちてしまいそうな儚さの残る、男みたいな名前の16歳の少女。
ずっと、惚れていた。きっと。公安の所属として、何より大人として忌諱されるべき感情だと思った。あの女は同じデビルハンターで、犬で、いつ死んでも代わりはいて、それで。たくさん彼女への感情を否定する理由を作ったけれど、無防備で何も知らなくて、きっと気付かないうちにたくさん傷ついている小さな少女を、デンジを、守りたいと思ってしまった。
いつも戦うたびに傷付いては死んでけろっと生き返る女の体を抱きとめたことがある。
ーその柔らかさと軽さに眩暈がした。
肩を掴んで怒鳴りつけたことがある。
ーその骨にこつりと当たってしまうような薄い体につい怯んだ。
見知らぬ男に自分達が危ないからなんて言われて、体を許そうとしていたこの馬鹿女に、そして男にキレてなりふり構わず男をぶん殴って、驚いた顔をする女の手を引いたことがある。
ーどうして、なんで?という顔をして、自分が傷付けば、体を預けて好きでもない行為をすれば全て収まるのだと思っている少女の顔を見たくないと強く思ってしまった。
認めるしかなかった。もう、笑ってしまう。年下の、しかも少女と言ってもいい年頃の女に欲情する趣味はなかったというのに。
それでもふと気がつけばデンジのことを考えている。
あいつの好きなものを作ってやると大きく口を開けて笑うところがかわいい。
わけてやれば目を輝かせるのがかわいい。
寝れないからと言って布団に潜ろうとしてくる時の揺れる瞳がかわいい。
パワーと嫌がらせのような悪戯を仕掛けてくるときの屈託ない手つきがかわいい。
なんでも自分を頼ってくるところとか、女性にしかわからないことを聞かれるのは困ったものであったが、自分を無意識に頼ってくるのがどうしようもなく可愛くて。
気まぐれに頭を撫でてやれば、子猫みたいにきょとんとして、やがて春が綻ぶように笑うのが、可愛くて、大切で、泣きたくなるほど愛しかった。
デンジの体を弄んでまさぐった男全てを殺してやりたいという体を焼き尽くすような憎しみに近い嫉妬だとか、無防備でくつろいだ姿に欲情してしまう自分の情けなさだとか、パワーと共に子猫がよりそうように眠る姿を見て安らぎを得ることがあるということ、デンジが、男を嫌う好きな女が無意識にでも自分のことを許容することへの歓喜も。どれもこれも全て、はじめてだった。
好きだった。どうしようもなく、惚れていた。伝えることなく終わってしまった囂々と燃え盛る炎が、脈々と受け継がれてこんな別の世界にまでついてきてしまうほどに。
きっと見つけ出したなら、情けなくも縋って愛を乞うてしまうだろう。アキはそんな自覚があった。あの寂しがりな女を置いていったことも、その女の元で別の恋敵が現れて彼女を慰めていたことも、現世でその悪魔のように美しい恋敵も、パワーや姫野、天使に岸部、マキマを名乗る幼い少女(岸部からはナユタと呼ばれていた)、他にも敵対した周りが集まっていると言うのに、デンジだけが現れないこともその予感に拍車をかけていた。
あいたかった。デンジに言いたいことは山ほどあって、アキが言わなければならないことも山ほどあって。それでもただ、その白い小さな体を抱きしめたかった。

「デンジ、?」

そうして街中で見つけた姿を追いかけて手を掴めば、お前が締まりのない、春が溢れるように笑う。

「アキ、」

ああ、ずっと。

ずっと、この笑顔に惚れている。

(抱きしめたいのだ、ファムファタル)