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「ベルおねえさん」


いつか聞いた幼子の声より幾分か低い、懐かしい声が響く。
振り向くと、嘗ては腰ほどにあった筈のきらきらと眩しい輝きが今は同じ目線にあった。

思わず小さく笑みが溢れて、彼女はゆるりと歩み寄る。

「…久しぶりだな、随分と立派になって驚いたぞ」
「うん、色々あったんだ。おねえさんは変わらないね、綺麗なままだ」
「よせよせ、名実ともに三十路だ。お姉さんって柄じゃない」
「そんなことないよ。変わらない…相変わらず綺麗で、気高いルフのままだよ」

からりと笑うと、少年だった青年はどこか安堵したように表情を緩める。
それを見てすぐに悟った。

…あぁこの子は心配してきたんだ。
私が、あの時切り捨てられなかったものをとうとう喪ったから。

彼女は肩ほどにも届かなくなった藍色の髪をかき上げて笑う。

「アラジン、ありがとう」
「っ…」
「私でも、ジャーファルでも駄目だったんだ。君達のお蔭であいつは最後の一線を越えずに済んだ、…感謝する」
「……ベルおねえさん、その」

少し力を込めて強めに頭を撫でると、アラジンは何か言いたげに口を動かしたが結局言葉にすることはない。

分かってるよ。
でも君は聡いからその先を紡げない。

言い澱む先を代弁するかのように、彼女は微笑みながら口を開く。

「あいつは好き勝手してさっさと消えた、私が去った理由もなくなった。でも私は戻らない、二度と。ジャーファル達が望んでくれたとしてもだ」
「っ、…おねえさん」
「はは、ごめんな。でも本当にそう望んでるんだ」

馬鹿な王は一人勝手に満足して消えてしまった。どうせいつかひょっこり帰ってくるのだろうと思わせるほどあっさりと。

遺恨はない、嘗ての仲間を愛しく思う気持ちは変わらない。
…弟であり、仲間であり、唯一愛しいと思った相手への思いも。

けれど、

「私はあの馬鹿と歩くことを諦めた女だ、あいつらとは違う。今更のこのこ戻る気にはなれないよ」
「でも…皆待ってる。おじさんと貴女の帰りを」
「あの馬鹿はそのうち帰ってくるかもなぁ。だから尚更、私は帰らない」
「…… 分かったよ。それがおねえさんの意志なら」

揺らいでいたアラジンの瞳がわずかな沈黙の後には真っ直ぐに彼女を見つめたのを見て、嘗てベルと呼ばれた女は満足げに笑う。

流石は救世のマギだ、もう子供扱いは出来ないな。
なんて独り言ちて。

「…アラジン、頼み事をしても良いかな」
「…勿論、大抵のことなら」
「はは、ありがとう」

遥かな世界のマギ、かの王の映し身。
君と、君が信じた未来の王に感謝を。

…けれど、それでも私の王は、


「私を、ルフに還して欲しい。君ならできるだろう?」
「………」
「…驚かないな、予測済だったか。一応言っておくがもう洗脳はされてないぞ」
「……分かっているよ。…おねえさんなら、きっとそういうと思ってた」
「そうか、なら良かった」

青年の瞳は揺るがない。
動揺や戸惑いは欠片もなく、ただ僅かに痛みを堪えるような笑顔を浮かべた。

それが申し訳なくもあり、酷く有り難い。

「……シンドバッドおじさんのところに?」
「そんな献身じゃない。…私の命はあいつに預けた、あいつの元に在るべきだ」
「ルフに還っても、おじさんに会える保障はない。意識だってどんどん薄れて、おねえさんだったという記憶もなくなってしまうんだよ?」
「会えなくても、会えても良い。ただ同じ場所に在るべきだと思うだけさ、それが私なりのけじめだからな」
「………そう、なのかい」
「あぁ、そうだ」

愚かな男だった。
ただそれでも、あれは私の王なのだ。

「…嫌なことを頼んですまない」
「…っ、……、ヴェルダンディおねえさん。僕は、君を救いたかったよ」
「…ごめんな、ありがとう」
「…… どうか、君がこれから幸福でありますよう。気高き人」


― これが、一つの結末。



ベルは本当に可哀想な子になってしまった…全部シンが悪い


2018/08/19

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