▼彼女の悪夢
例えばの世界の璃の話
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最初に確認したのは携帯だった。息が出来なくて、此処がどちらかも判断が付かなくて。写真、メール、その全てが自分の知るままであったことを確認して漸く身体に血の流れが戻った気がした。
それでもやっぱり自分が戻ってきたのだと、彼を呼んでも許されるのだという実感はなかなか得られない。恐ろしい、またあの足元から崩れ落ちる感覚を味わいたくはない。
とても会いに行く勇気は出なくて、酷く冷えて感覚のない指で辛うじてメールを送った所でベッドに座り込んで膝抱え込んだ。
怖い、早く、ううん返事なんか来ないで。恐怖に冒された思考は支離滅裂だ。
ふいに響く音楽。彼専用の着信音、それもメール着信に設定したものとは違うメロディ。手が、喉が、酷く震える。
「…は、い」
『あ、良かった出た!』
明るい声。でも貴方は“どっち”?
恐ろしさに泣いてしまいそうで、声なんて出なかった。
「っ…、…」
『あれ、もしもーし?璃?どうしたの?』
呼ばれた名前は聞き慣れた音。あの恐ろしい夢のような、酷く距離のある呼び方なんかじゃなかった。
それが酷く嬉しくて、安堵という言葉では表現しきれない感情に自然と頬が濡れる。堰を切ったように溢れ出して、電話中なのに押さえることも出来なかった。
「っおとや…っ、音也…」
『っ璃…!?何かあったの!?』
「音也…っよか、った…」
心配させないようにとか、みっともないとか、そういう普段ならば働く理性は何の役にも立たない。ただひたすらに安心感と愛おしさに思考が染まって、小さな子供のように彼の名を繰り返す。
ただ最後に一欠片残る理性で泣き叫ぶことだけは避けられていて、小さな嗚咽を繰り返していると電話越しにも分かる硬い声で音也が呟いた。
『璃、璃聞いて』
「…う、ん」
『あと十秒だけ泣くのを我慢しててくれる?』
「…ぉ、とや…?」
『ね、お願いだから』
ガチャリ。電話越しの声とほぼ同時に扉が鳴って、そして
「俺のいないところで泣いちゃ駄目だよ、ね?」
ブツリ。電話が切れた音が響いたと思ったら、半ばベッドに押し倒されるように抱き締められて彼の胸板に顔を埋めることになった。
「来て良かったぁ、璃から珍しくメールくれたから会いたくなって急いで来たんだ」
「…お、とや」
「うん、俺だよ。璃のことだーいすきな一十木音也」
あぁ、ほら。これが私の世界、私の大切な人が私を愛してくれる世界。私以外の子に、このとろけそうな甘い視線を向けたりしない。愛の言葉を囁いたりしない。…七海さんに、恋なんてしていない。
当たり前の、慣れた世界の筈なのに涙が止まらなくて。思わず音也に両手を回して抱き付くと、音也が少し動揺したような声を上げた。
「っうわぁ…!?え、わわっ、その、璃…?」
「…うん」
「…璃、何かあった?不安にさせたりしちゃったなら言って欲しい、璃にこんな顔させるなんて、俺自分でも許せないよ」
「………」
すごく真剣な顔で言う彼を見上げて、漸く少しだけ落ち着きが取り戻せた気がした。
いつも真っ直ぐで、私のことを考えてくれて、…私の曲を愛してくれて。そんな、私の知る音也だ。
「…音也」
「何?」
「明日、お仕事何時から?」
「へ?…えっと、明日は予定が変わって夕方からインタビューがあるだけだけど」
「…今日、ずっと一緒にいたいって…お願いしてもいい?」
「っ…!!」
ごめんなさい、もしあちらの世界が正しいのだとしても、七海さんと彼が恋人になる世界が存在するのだとしても。
私は、この人を失えないの。
こないだの世界線云々ので戻ってきた璃ちゃんの話。
不安過ぎて暫くどっちにいるのか分からなくなる璃さん。本当に珍しくすごく甘えてくる璃にうひょぉおああってなりながら一日中抱き締めて一緒に寝る男です一十木は。
でも正直夢と思ってる(思いたい)だけで、本当に夢でも何でもなく違う世界線に飛んでるんだと僕は思います。なのでリアル感半端なくて普段強い璃鈴佳奈小夜も潰れる。
2014/01/17
2017/07/02
うたプリ