小屋

▼現パロ
再会の話。途中で力尽きたやつ


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入学式なんてものに胸を高鳴らせるほど初心な精神ではない。だが、ざわつく新入生の溢れる廊下で、彼は身を震わせるほどの衝撃に思考と身体の支配を奪われることとなった。


記憶と寸分違わぬ姿に込み上がるそれが歓喜なのか郷愁なのかは分からない、けれど全身の血が沸騰するような興奮が身体を震わせたのは確かで。

陽に透けると茶にも変わる艶やかな髪を無造作に纏め、その余りに端整な造りと変化に乏しい表情故精巧な人形のような錯覚すら与える少女。
捜し求めていた嘗ての面影をそのままに、制服に身を包む彼女を見た瞬間にその細腕を力任せに引いたのは致し方ないことだった。



「っ、九子っ…!!」

恐らく痛みを伴うほどの勢いだったろうが、それを気にかける余裕は今の彼にはなかった。

あぁ、知っている。靡く髪から香る匂いも、僅かに見開かれた瞳もすぐに顰められた形のよい眉も。全て記憶のままだ。
疑いもなく自然と溢れ落ちた彼女の名だったが、当の少女は特に反応することもなく僅かに不機嫌な色を帯びた視線を向けた。

そして、抑揚のない鈴の音がゆっくり彼の耳朶に響く。


「…離して下さい、痛い」
「っ…お前」

やけに硬い響きに、彼はぴくりと肩を揺らして少女をまじまじと見つめる。
敬語。返された言葉はやけに他人行儀で、向けられる視線に含まれる感情は昔の彼女と良く似ているようで異質なものだった。

まるで奇異な初対面の人間を見るかのような怪訝さを含む視線に、彼は愕然とする。


"彼女"ではない?いや、まさか。こんな瓜二つの人間が他にいるはずはない。外見だけではなく、纏う雰囲気も声も全てがあの日の彼女と一致した。

とすれば、残る可能性は、


「……覚えて、ないのか」
「…何を言ってるのか分からないです。それより、離して」

思わず力の抜けた彼の腕を振り払って、彼女は不愉快そうに溜め息を溢す。
為すがまま振りほどかれた手に構うことも出来ず、彼はただ混乱と衝撃に打ち拉がれる思考を持て余すしかできなかった。


覚えて、いない。彼女はあの日の彼女であってそうではない。
例え此方がどんなに求めても、今の彼女には理解不能であり不愉快な不審人物でしかないのだと思い知る。

可能性を考えたことがなかった訳ではない。ただ、そんなわけはないと目を逸らし続けて彼女を捜し続けてきた。
嘗ての仲間は皆揃って"前の生"の記憶を持っていたし、それが当然なのだと強引に信じ込んでいた。そうでなくては困る、と半ば暗示のように。


なのに、恐れていた事態が目の前で現実となって彼を嘲笑っていた。
目眩すら起こしそうな思考の混迷の中で、彼は目の前の少女に取るべき反応を決めかねてただ言葉にならない音の断片を紡ぎかけては消していく。

そんな明らかに異様な様子の彼に、彼女が呆れたように肩を竦めて踵を返そうとした、その瞬間。


「あ、いたいた九子」


聞き慣れた懐かしい声。

まさか。一縷の望みに縋る気持ちで振り返れば、想像通りの顔がそこで微笑んでいた。


「あれ…?」
「っ千茅…」

明朗な印象を与える、同じく端整な顔立ちの少女が此方を見つめて首をかしげているのを認めて彼は少々情けない声色で呟く。

嘗ての世では親友、いや悪友ともいうべき仲であった少女と同じ姿で佇む人物。
恐らく、いやきっと。彼女にも先程九子から与えられたものと同じような反応が来るのだという落胆と、それでもと或いはという僅かな期待。


複雑に入り雑じった感情を乗せた彼の瞳に、千茅の姿をした少女は一瞬見せた不可思議そうな顔をぱっと明るい笑顔に変えて笑った。


「三郎!あははっ、すごいね本当に今も雷蔵の顔なんだ」
「……は?」


からからと笑った少女の言葉に、彼はまさしく目を丸くして言葉を失う。


「ふふ、残念?かな九子」
「…顔なんてどれでも一緒、腹立つことに変わりはないし」
「三郎である限り?」
「無理」
「………待て、お前ら」
「ん?」


待て、色々と可笑しい。この会話の流れは、つまり?

少女達の不可解な会話の辻褄を合わせようと脳が働くよりも先に、彼はほぼ決定事項として一つの仮定に辿り着き。


「っ九子、お前っ…!!」
「何」
「っ生まれ変わっても底意地の悪さは変わらんのかこの性悪!!」
「そっちが勝手に勘違いしただけ」
「んん…?何々、再開して早々に」



この女っ、俺が一体どんな気持ちで!!

そんな言葉にならない怒りと悔しさをぶつけても、当の九子は乾いた嘲笑を返すのみ。

「ふざけるな!俺が一体どれだけ捜したと思ってる出てくるのが遅いんだお前達は!!」
「別に捜して欲しくないし一生顔を見たくなかった」



とっても昔の書きかけ現パロいろは。供養供養。



2017/07/02

いろは唄