小屋

▼_
一話より先に二話が出来る計画性のなさ。
好き勝手ご都合主義原作軸無視を前提にするなら今一番そわそわするジャンルなんだよなぁ…何か不本意だけど…

**************


確りしているだとか、大人びているだとか、そういう類の評価には慣れている。
というか、そうでなくては困るだろう。私の場合、見た目と精神年齢が一致していたらそれはもう悲惨と呼ぶしかないのだから。


「…最近の子は妙に大人びてるねぇ」
「あはは、光栄です先生」

驚きと、そして少しの呆れを混ぜたような表情で、女性教師が目を瞬かせる。
長い髪を一つに結い上げ、年齢を感じさせない溌溂とした雰囲気を纏うその人は件のテニス部の顧問にあたる人だった。

彼女は先程私と光から提出された二枚の紙切れを手の中で玩びながら、困ったように額に手を当てて溜息を零す。


「あんたは手塚だね。小学生ながら各大会で賞を総なめにした天才プレイヤー。特別扱いする気はないが、戦力としては歓迎するよ」
「…はい、有難う御座います」
「で、そっちのあんたは…」


ちらりと困惑の視線を向けられ、反射的ににこりと笑みを返す。

濁された言葉の先を察せない程馬鹿ではない、そして本来それに逆らう理由もない筈だ。
部活なんて熱量の高いものからは距離を置きたいというのが本音である。
けれど、隣の男が発する空気だけで脅迫するという器用な真似を見せるものだから、大人しく甘受するという選択肢は与えられていないらしい。

内心で肩をすくめつつ、女性教諭が続きを紡ぐよりも早く目を細めて弁舌を振るうことにする。

「…勿論、竜崎先生のご心配は承知しています。選手層の厚い強豪校において女子マネージャーを入れることはほぼデメリットしかない。異性の存在は少なからず規律を乱す傾向がありますから」
「………」


うん、その呆気にとられた表情は小気味良い。
目立つのは本意ではないので普段は大人しくしているだけに、この久しぶりに見る表情は妙に気分が良かった。

未だに隣からの圧が止む気配はないので、畳みかけるように口を動かし続ける。

「重々承知しています、その上でデメリット以上のメリットを提供するよう最善を尽くします。隣の天才児との付き合いでルールは勿論、怪我や疲労の基本処置とかメニュー組みも一通りは。まぁ一番得意なのは雑用ですけどね、洗濯荷物運び買い出し球出し諸々はお役に立てるかと。…プレゼンとしてはこんなところでしょうか」
「………」


目の前の女性だけでなく、周囲の教師数人が呆気にとられたように此方を見るのが分かった。
まぁ、そうでしょうとも。私ならこんなくそ生意気な中学一年生は絶対に御免被る。

唯一満足そうなのは隣でようやく威圧を緩めた光だけだ。
表情は相変わらずの鉄面皮に眉間の皺だが、一応放つ空気は和らいでいた。

異様な空間の中で素知らぬ振りで微笑みながら硬直が解けるのを待っていると、数秒後に漸く思考を取り戻したらしい女性が盛大に噴き出した。

「っぷ…… っあっはははは!!全く、今年の新入生は生意気だねぇ!こっちが剣を抜くのを躊躇している間に先に斬り付けてくるなんて!」
「…有難う御座います、先生」

恐ろしく懐の広い人だ。

そういう人だと分かってやったこととはいえ、改めて感心する。
十年そこそこしか生きていない小娘にあんな無礼な口をきかれたら、私なら良くて舌打ち最悪二、三発頬を引っ叩く自信がある。

うっすらと涙を浮かべる程に愉快だったらしい彼女は目を擦りつつもからりと笑って私の頭を撫でた。

「生意気だけど、その度胸と頭の切れは私好みだよ。いいだろう、入部を認めてやろうじゃないか。えーと、」
「紺野莉緒です。…有難う御座います、竜崎先生」

敬意と謝罪を込めて深く頭を下げる。
と、彼女は見透かしたようにまたからからと笑った。

「初日から張り切ってくれたとこ悪いが、新入生は明日からだよ。マネージャーもね。今日は自主練でもしておくれ。明日からはビシバシ鍛えるよ!」
「「はい、ありがとうございました」」

ひらりと手を振った彼女に二人で揃って頭を下げる。
奇異なものを見るような視線を向けてくる教師達の間をすり抜けて、そのまま素知らぬ顔で扉を出て。

音を立てないよう扉を閉めた後、ゆるりと顔を見合わせる。

「……ハードル上げて首を絞めてまでご期待に応えた私に労いをどうぞ、閣下?」
「怠けない限り首は締まらないだろう、お前なら」
「はぁ…これですよ」

少しは頬か眉間の筋肉を緩めてよくやったの一言も言えないのかね、この鉄面皮閣下は。




2017/12/18

その他