小屋

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一話。ありがちなので色々割愛してみた

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詳細は省きます。何故って私自身すら説明出来ないから。

強いて推察するとしたら神様の悪戯とか物理法則のエラーとか、或いは私自身の妄想とか。
最後だった場合自身の情けなさに死にたくなるのでそれ以外の二つのいずれかということにして、とりあえず私にはどうすることも出来ない理由からこうなったと主張しておきます。


細かいことは追々。とりあえず、結果のみのご報告として。
― 私、紺野莉緒。本日、奇しくも人生二度目の中学入学を果たしました。


「いっそ殺せ……」
「……初日から何をふざけたことを言っているんだお前は」


まるでメトロノームのように規則正しく、頭からつま先まで針金でも入っているのかと思うような一糸の乱れもない歩行姿勢で近寄ってきた少年が呆れたような視線を向けた。
窓から緩く風が吹けば右に流した長めの前髪がさらりとゆれて、随分と絵になる男だと思うのは初めてのことではない。
つい先日までランドセルを背負っていた癖に妙に低く落ち着いた声だ。

ざわざわと騒がしい周囲をものともせず、涼しい顔をして見下ろしてくる彼に机に突っ伏したまま呻いて返す。

「男子はいいなぁ…学ランで」
「…まだごねてるのか、往生際の悪い。既定の制服だ、文句を言っても仕方ないだろう」
「制服に文句は言ってない、私がこの制服を着るという惨憺たる事態を嘆いている」
「屁理屈を言うな」

ごつり。割と強めに拳が入る。勿論痛みもそれに相応するものが付随して額を疼かせた。

…いい加減見た目は知性派美少年だが中身はそこそこのパワーゴリラだということを自己認識していただきたい。
勿論、言えば絶対零度の瞳を向けられるのは目に見えているので言葉として吐いたりはしないけれど。

「だってさぁ…こんな何のとは言わないけど衣装みたいな…若い子が着る分には可愛いけど」
「諦めろ、その内見慣れる」
「フォローど下手か。…まぁ光にそんなの今更期待してないけどさ」

会話の間もじっと見下ろして視線だけで急かしてくる少年に逆らう道理はない、机に預けていた身体をのったりと起こして立ち上がった。

俄かに周囲の視線が此方へ集まるのを感じたか、それについて深く考えるのはやめにすることにしよう。
この少年が既に有名人だとか、それに付随して私もちょっとした注目を集めているとか、そういったことへの対処を考えるのはもう少し先のことだ。

「…光はこのまま入部届だっけ?」
「あぁ、初日から受け付けているらしい。お前も行くだろう」
「うぇえ本気なの…私のんびり帰宅部希望なんだけど」
「そうか、行くぞ」
「わぁい暴君」

茶化した返答すら素知らぬ顔ですたすたと歩き出す辺りまさしく暴君といえる。
けれどまぁ、何の因果かこの少年との付き合いは短くはないので慣れたやり取りだった。
そう、短くない。

この少年 ―手塚国光との付き合いは。


相変わらず一切軸のブレない機械めいた歩調で先を進む彼を小走りで追いかけて、諦めきれないボヤキが零れる。

「あーあ、やっぱり彩菜さんに押し切られずに光と違うとこいくんだったなぁ…」
「後悔先に立たずだな」
「そもそも硬派な強豪校だし女子マネ禁止じゃない?」
「前例がないだけで禁止と公言されてはいない」
「……それ暗黙の了解で禁止って意味だと思うなぁ紺野さんは」

表情は鉄面皮のまま、けれど少しだけ目が細められていた。
短くない付き合いのせいでそれが信頼に起因する脅迫に近いものであることが分かってしまった。

要は、最初の例になると疑っていないのでその期待を裏切ったら許さんぞ。という感じの。
信頼は嬉しいのだけれど、過剰な信頼は荷が重い。

「…ご希望に添えなくても怒らないでね」
「寝不足か」
「寝言じゃないっての鬼か」



― 詳細は省きます。

私、紺野莉緒。元社会人、本日から中学一年生。
かの有名な手塚国光と、かの有名な青春学園男子テニス部へ入部届を提出に参ります。

本当に、全く    何て奇妙な。


2017/12/19

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