▼つづき
原作無視ならいける気がしている
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なるほど、これが新手の詐欺商法。
「………」
「…えーと、ここまでで質問ありますか?」
「20万までなら払いますし被害届も出しませんから帰らせてくれません?」
「……うん、気持ちは分かるけど」
眼鏡の青年が色々と連れを引き連れて戻ってきたのは十分ほど経ってからのことだった。
お待たせ、と呑気に手を振った彼の後ろにはぞろぞろと人が連なっていて、一体何が始まるのか少々不安になってしまう。
どうみても学ランと思しき制服を着た人の好さそうな黒髪の青年。
無駄に顔の良すぎる軍服姿の外国人男性三人、うち一人はまだ少年と呼んでも良い年頃。
軍服に緑髪という中々攻めた格好だけれど物腰の柔らかな美人の外国人お姉さんが一人。
…一体どういう集まりなんだろう、これは。
取るべき反応を選びかねている内に、緑色の美人さんはさくさくと私のメディカルチェックを済ませて部屋を出て行ってしまった。
…お医者さんだったのか。物腰は柔らかいがそれだけにあの髪色は一体どんな経緯があったのか気になってしまう。
そうして漸く落ち着いたところで、眼鏡の彼とお人好しの彼がつらつらと説明してくれたことによれば。
「あー…信じられないかもしれないけど。本当に地球じゃなくて別の世界で、ここは魔族の国なんだけど怖いとこじゃなくてさ。一応俺が王様やってるくらいだし…」
「剣と魔法の異世界ファンタジーって思ってくれていいんじゃないかな。まぁ実際結構シビアなとこもあるけど貴女の安全は約束できるし、そんなに警戒しなくても」
「……」
こうして冒頭の発言に至るというわけで。
これで流石に状況が察せない程お気楽思考ではない。
クレジットの残高を必死に思い出しつつ、私は一つの推論に行き着いた。
……ぼったくり高級ホストクラブだこれ。しかも無駄な異世界設定付。
魔王だ魔族だと二人が一生懸命設定を説明してくれるのだが、正直口座残高のことで頭がいっぱいで一切頭に入ってこない。
詐欺のカモになるのは癪だが、助けてもらった恩があるのは事実だ。大分痛手ではあるが20万で素直に帰して貰えるならその方がお互いの為だろう。
そう思っての発言だったのだが、返ってきたのは二人分の苦笑だった。
…若いくせに中々駆け引き上手だ、流石詐欺に加担するだけのことはある。
「…30万で良いですか」
「いや金額じゃなくて。というかお金はいらないです…」
「…ソープに沈めるのは勘弁していただきたいんですが」
「もっと違う!!」
必死に否定する様子に、こんな人の好さそうな子が詐欺に加担してるなんてなぁと物悲しい気分になる。
いや他人の人生にケチをつける気はないけど、まだ若いのに…。
勝手な感傷に浸っていると、友達が苦戦しているのを見かねたのか眼鏡の彼が苦笑気味に口を開いた。
「えーと、参考までに。お姉さんの中では今どういう状況なの?」
聞くのか、それを。
けれど濁したところで意味はないので、はっきりと答えさせてもらう。
「…ぼったくり高級ホストクラブで遠回しに金銭を要求されてる」
「っぷ、っあっはははは!ホストクラブ!!そうきたか!」
「………」
別にウケを狙ったわけではない。けれど笑い転げる眼鏡の彼の横で、お人好し君も小さく噴き出していた。
…馬鹿にされたのか真剣に可笑しなことを言ったのか判断が難しいところだ。
「た、たしかに、ウェラー卿とかNo.1ホストっぽいよね…!」
「コンラッドとヴォルフはともかく、グウェンダルがホストって…」
「いやいや、フォンヴォルテール卿は一定層に絶大な人気を誇るタイプだよ。愛想に欠ける分少し優しくすると一気に落ちるっていう」
「………」
やっぱりホストクラブじゃん。
わいわいと勝手に話を広げて盛り上がる二人に若干白い目を向けると、お人好し君が我に返ったように首を振った。
なかなかしぶとい。お金は払うって言ってるんだからそこまで頑張らなくてもよさそうなものだけど。
「っじゃない!!だから、詐欺でもぼったくりでもホストクラブでもなくてさ!ホントに異世界ファンタジーなんだって!!」
「その発言の時点で設定としか…」
「うっ…!い、今の言い方だと確かにそうなんだけど、違くて!」
「渋谷ー、泥沼にはまるから黙っててー」
「…ごめん、任せたダイケンジャー」
お人好し渋谷君に眼鏡大賢者。…なんかこの辺だけ設定雑だなぁ。
選手交代した大賢者が困ったような笑顔で頬をかきつつ、諭すような声色で話し始める。
「今のは渋谷が悪い。ごめんね」
「……」
「でもまぁほら、お姉さんも心当たりはあるでしょ?突然湖の中にいたこととか、普通じゃ説明つかないし」
「……それは」
…確かに、その点だけは反論できない。
昨日私は帰宅途中で、家の近くの道を歩いていた筈で。
近くには用水路も溜池もない、本当に歩いていたら突然としか言いようがない状況だった。
まるで神隠しに遭ったように、…まるで異世界に引き込まれたように。
けれど、その一点だけでそうそう信じられるものではない。
「……貴方は大賢者設定なんですね」
「設定って。うんまぁ、そういうことになってるね。ちなみにこっちは魔王陛下ね」
「……もう少し配役考えられなかったんですか?」
「はは、そうだね。設定ならもう少し上手く配役するよ。でも現実、魔王陛下はお人好しでヘタレで野球馬鹿な渋谷なんだよねぇ」
「………」
この人の好さそうな彼が、よりにもよって魔王様ときた。
…一周回って真実味があるとか思ったら思う壺なんだろうなぁ。
けれど、なんだか段々面倒くさくなってきてしまって。
早く家に帰りたいし、お金も多少なら覚悟している。
それならもういっそこの芝居に付き合った方が早く帰れるんではないだろうか。
そんな思い切った舵取りが頭を過って、大賢者様をじっと見上げる。
「…分かりました」
「え?」
「大人しく付き合います、設定に。その代わり早めに帰して下さい、明後日から仕事なので」
「うーん…まぁ根本の解決ではないけど。とりあえず今はそれでいいかぁ」
また苦く笑うと、大賢者は魔王陛下に目配せしつつ肩を竦める。
魔王陛下も若干困り顔を残しつつ、どうにか話がまとまったことで安堵したようだった。
とりあえず目下の問題を未来の自分に丸投げしたところで、先程からずっと気になっていた疑問を口にしてみることにする。
……むしろ今まで触れずに来れた自分を褒めたい。
「…それで、魔王様に大賢者様?」
「ん?」
「何?」
「そこの沈黙したまま動かない顔の良い三人組は何役ですか?」
「役って。えーと…コンラッドはー…」
「ざっくり言えば魔王様の優秀な部下達、ってとこかな。あぁ正確には一人は違うけど、まぁその辺は魔王様が困るだろうから言わないでおくよ」
「……その辺は聞かないでくれると助かります」
課金額に応じて明かされる裏設定的な奴だろうか。
深みに嵌まるつもりはないので触れないけれど。
「えーと…昨日助けてくれた方ってあの中に?」
「あぁ、それならコンラッドだよ」
「ウェラー卿だね、あの左端の茶髪のイケメンだよ」
なるほど、No.1ホスト。
情報を繋ぎ合わせるにコンラッド=ウェラーさんというところか。
一向に口を開かないどころか動こうともしなかった三人が、自分達が話題に上がったことに気付いたのかじっとこちらを凝視していた。
どこか緊張したような硬い表情が気になるが、助けてくれたことのお礼くらいは伝えておくべきなんだろう。
ベッドに腰かけていた状態から立ち上がって、茶髪のイケメンお兄さんに向かって深く頭を下げる。
「昨晩は助けていただき有難う御座いました。…ウェラー、卿」
「っ、」
…お芝居に付き合うと決めたものの、流石に卿なんて呼び慣れない敬称をさらりとは口に出来ない。
努めてにこやかな笑顔を作り深々とお辞儀すると、返事の代わりに息を呑むような音が聞こえた。
そうして頭を上げてから暫く待っても一向に返事はなく、ただ驚いたような表情で固まるイケメンがいるだけ。
…なんだなんだこの反応。
もしかして設定上お礼の仕方を間違ったんだろうか。
怪訝さに眉を顰めると、また大賢者が苦笑気味に助け舟を出す。
「ごめんね、色々戸惑ってるだけだから許してあげてほしいな」
「…外国人キャストには言葉が通じない設定ですか?」
「いや言葉は通じてる筈だけど。ギーゼラさんは話してたし」
あぁ、さっきの緑髪の美人女医。
確かに彼女も時々変なフリーズはあった、けれどちゃんと会話はしてくれたし言葉が通じない設定というわけではないらしい。
となれば別の設定、あるいは彼個人として私に何か思うところがあるか。
まぁその辺も突っ込みはしないけれど。
「うーん、ウェラー卿、色々大変かとは思うけど頑張って返礼だけとってくれるかい?」
大賢者の申し訳なさそうなお願いに、No.1はまたびくりと肩を揺らしてゆるゆると此方へ身体を向けなおした。
…若干、どころか大分視線が下を向いているのは気のせいじゃない。
設定か本心かはさておきどうやら私の顔を見たくないらしい彼は、私の腰辺りに視線を落したままぎこちなく略式礼を取った。
「っ、…はい。御無礼をお許し下さい、姫」
「…………………」
………………… 。
…………………………………… 。
あぁうん、そういうね。
「……ダイケンジャー」
「うん?」
「私の設定、町娘Aにチェンジ」
「はは、無理かな」
「魔王陛下」
「ふぁっ!?いやゴメン無理!」
「 …………………」
駄目だ、鳥肌で死ぬかもしれない。
20180129
2018/01/29
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