小屋

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くの一してるうちの子が可愛いってだけ


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ふと現れた美しい天女を目に焼き付けて、死に誘われた事にも気付かず事切れていく気分は如何程のものか。

恐怖を感じる暇さえ無いのだろう、ともすればそれは幸福と言えるのかもしれない。
人生最後の光景が、穢れなど終ぞ知らぬ無垢で玲瓏たる天女の微笑みとなるのならば。


「………ほとほと恐ろしい生き物だな、くの一は」

心からの本音にも、天女はかくりと首を傾げて暢気なものだった。

「そう?楽でしょう、血腥い戦場にこんな女が降ってくれば大抵の敵なら一瞬の隙が生まれる」
「…その隙が消える頃には隠れたもう一人によって既に型がついていると言うわけか」
「九子と組む時はこっちは九子の役なんだけど。私でもまぁいけたね」


くすりと口許を隠して笑う女は彼の知る彼女だが、けれどとても見知った彼女とは似付かなかった。

白磁のような肌、桜色の頬、絹糸のような髪、纏う優美で柔らかな衣。
この血と火薬の臭いで満ちた惨澹たる世界の中に、そんな女が虚空から音もなくふわりと舞い降りて。

…ほんの一瞬にも満たぬ刹那、見惚れたところで誰が責められようか。


恐らく、確実に。断言しても良い。
例え百戦錬磨の忍でも、刹那の隙すら生まずにこの天女を敵として斬り伏せることが出来よう筈もない。
…タネを知っている自分であっても、恐らくは。


だからこそ、あぁ、なんて恐ろしい。


「………くの一とは絶対にやり合いたくない」
「はは、兵助が下級生みたいなこと言ってる」
「分かった、訂正だ。お前と九子とは絶対にやり合いたくない」
「ふふ、そんなに怖かった?荒野の花戦法」
「衆合地獄の間違いだろう」
「あっはは、そっちのが面白いね。九子に言っとこう」


くの一とは、視覚で人を殺す鬼なのだろう。



2018/02/05

いろは唄