キールがFBIの手に落ちたらしい。彼女は大怪我を負い、杯戸中央病院に入院しているそうだ。あの日彼らと別れた後そんな事になっていたとは思いもしなかったので、この話を後日ジンにされた時はとても驚いた。

「で、どうやってキールを連れ出すの?その病院にはFBIが沢山いるんでしょう?」

夜更けの首都高は昼間に比べると走っている車も疎らで、ウォッカが運転するポルシェ356Aは結構なスピードを出している。名前はぼんやりと窓の外に見える都会の夜景を見つめていたが、ガードで外が見えなくなってしまったのをキッカケにその視線をジンへと移した。

「フン…心配するなレッドアイ…色々手は打ってある」

「…そう、それなら安心ね」

ガードが無くなり名前は再び視線を窓の外へと移す。そんな彼女の姿を一瞥したベルモットは、口を開いた。

「まあせいぜい気をつけるのねジン…。向こうにはシルバーブレッドが目を光らせているから…」

「赤井秀一…俺の頬骨を鉛の弾で抉ったあのFBIなら、この件に乗じて処理する算段だ…」

ジンの隠しきれない殺気に眉を顰めた名前は、気を紛らわせようとウィンドウを開ける。途端に強い風が車内に吹き込み、彼女とベルモットの髪の毛は舞い上がった。

「ちょっと、レッドアイ!窓を閉めて!」

「ご、ごめんクリス…」

慌ててウィンドウを閉める。舞い上がった自分の髪の毛を押さえつけながらベルモットを見ると、その柳眉は見事に釣りあがっていた。

「貴女馬鹿なのかしら?高速道路で窓を開けるなんて」

「…すみません」

「分かればよろしい。今後はしないことね」

全く、と言って足を組み替えたベルモットに再度ごめんなさい、と伝えた彼女は、改めて窓の外に目を向ける。
ーー赤井秀一。彼女は彼に会ったことはなかったが、組織で彼は要注意人物として有名なので一方的に顔は知っていた。2年前までは組織に潜入しライというコードネームまで与えられていたそうだ。何よりあのジンの頬骨を抉り、且つ1年前にはNYでベルモットを追い詰めたというのだからすごい人物という事に疑いを持つ訳がなかった。

「会ってみたいわね、その赤井秀一に…」

「レッドアイ、奴を見たことが無いんですかい?」

「ええ、タイミングが悪いのか一度も」

「フン…奴の死体なら幾らでも見せてやるさ…」

「あら、期待しているわ…」

そう言った彼女はチラリとジンの顔を一瞥した後、鞄から煙草を取り出し火をつけた。煙を吐き出しながら再度ぼんやりと窓の外を見ると、先日DJを暗殺する際に使用した杯戸岡田ビルが彼女の目に入った。

キールは優しい女だった。優しい彼女に、組織の色は似合わないと名前は思っていた。だから今回キールがFBIの手に落ちたとジンに聞いた時、最初こそ驚いたがこれで良かったのかもしれないと思ったのだ。彼女には光が良く似合う。自己満足だと思われるかもしれないが、これ以上彼女の手を黒く染めたくなかった。

「レッドアイ、お前にはキール奪還のために色々と動いてもらう。くれぐれもしくじるなよ」

「…了解」

キールのように捕まって仕舞えば、自分はこれ以上苦しい思いをしなくて済むのだろうか。苦しい思いをしても生きていたいと思えた彼女の唯一の希望は、望まない形での再会によって失われてしまった。降谷零。それは確かに彼女の生きる希望であり、別れてからもそれは変わらなかった。それなのに。1番知られたくなかった秘密を、彼に知られてしまった。今の名前にはもう、何もなかった。
彼女の思いとは裏腹に、事は進んでいく。キールはきっと組織に戻る事になるのだろう。そして今までと変わらず悪事に手を染めていくのだ。ポルシェ356Aは走る。4人の人間の、様々な思考を乗せて。

お題配布元:秋桜

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