キール奪還は成功に終わった。作戦当日、私はキャンティ達と同様のポジションにつく予定だったが、ベルモットがまだFBIに顔を見られていない私が態々顔を晒す必要がないとジンに進言したため私が受け持つ予定だったポジションはウォッカがやる事になった。その代わりと言えるかどうか微妙だが、名前は杯戸中央病院を混乱に陥れるため、レストランHAIDOの従業員の1人に変装し食中毒菌を提供する食事に混入する作業を行った。任務と言えるかどうか分からない程の簡単な任務だったが、誰も死ぬ事がない任務に就けたのは幸いである。
そして今、彼女はーー。
「レッドアイ、奴が赤井秀一だ…」
「へえ…思ったよりも色男じゃない」
「フン」
来葉峠にはポルシェ356Aが停まっていた。山向こうの道路には、2台の車が停まっている。事の始まりはキールに課せられたある任務だった。キール奪還があまりにも簡単に成功した事に不信感を抱いたあのお方直々の任務らしい。その任務内容は裏切り者であり、組織の心臓を射抜けるとまでいわれているシルバーブレッド、赤井秀一の暗殺ーー。
「レッドアイ、目を反らすなよ。裏切り者の末路をその目でしっかり見ておけ」
「…悪趣味ね。心配しなくとも、私はバーバラとは違うわ」
「…フン、どうだか」
赤井秀一と会うなりキールは彼に銃口を向けて肺を撃ち抜いた。モニターには荒く息をしながら撃たれた箇所を左手で抑える赤井の姿が写っている。撃たれた箇所が悪いため放っておいても長くは持たないだろうが、ジンは残酷にも頭に弾丸を撃ち込むようキールに命じた。命を受けたキールは右手で銃を構え直し真っ直ぐに赤井の頭頂部に向ける。
「まさかここまでとはな…」
「私も驚いたわ…こんなに上手くいくなんて…」
この会話を最後にキールは引き金を引いたらしく、撃たれた赤井が倒れこむ姿が画面に写った。シボレーの後部座席に倒れ込んだ赤井の頭からは止め処なく赤色の液体が流れ出している。それをぼんやりと眺めていると、何処からかパトカーのサイレンの音が聞こえた。どうやら近くで事故があったらしく、ジンがキールに後始末をして早く引き上げるよう伝える。了解、とキールが返してきたのを確認し無線を切った。モニターを見るため後部座席から乗り出していた名前が身体を元に戻したのを皮切りに、ウォッカは車を発進させる。辺りは真っ暗で、彼女が窓の外を覗いても景色を紅緋色の瞳に写すことは出来なかった。
窓の外に目をやりながら、名前は考えていた。組織を潰す可能性を秘めていた男…シルバーブレッドと恐れられた赤井秀一は、こうもあっけなく死んでしまう男だったのだろうか。キールはどんな気持ちで引き金を引いたのだろう。彼女は優しい人だ、そんな人に人の命を奪う引き金を引かせたくなかった。
それに、最後に赤井が残した言葉も気になった。おそらく自分の命がここで終わってしまうなんて思いもしなかった、という意味なんだろうが、何だか腑に落ちない。対してキールがこんなに上手くいくなんて、と返している点も気になった。
「今日の映像をよく覚えとけ、レッドアイ。てめえもあんな風になりたくなけりゃな」
「…ご忠告ありがとう」
窓の外から視線を戻す。バックミラー越しにジンと目が合った。その冷たい瞳を見た彼女は、この件をこれ以上詮索するのは止めようと思った。もし赤井が生きていたとして、殺されるのはキールだ。命を奪えなかった者は、自分の命を奪われる。ここではそれがルールだ。
母は私を身籠った時何を思ったのだろうか。命を奪う立場にいる者が、新しい命を生み出すなんてーー。
「てめえにとってのウェルシュが現れねえよう、精々祈っておくんだな」
この日のジンの言葉を、私は忘れる事が出来なかった。
お題配布元:確かに恋だった
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