ベルツリー急行から降りたバーボンは、先程煙の向こうに現れた人影を赤井秀一ではないかと考えていた。赤井秀一の変装をし彼の周囲を探った際には奴が本当に死んだとしか思えない反応が返ってきたが、自分は奴の用意した罠にはまっていたのかもしれない。どうやら一から調査しなおす必要がありそうだ、と息を吐いた所で、目の前を歩くベルモットを見つける。
「赤井が死ぬ前後の詳細なファイル…もう一度見せてくれないか?」
「ええ…」
どうやらベルモットは何か考え込んでいるようで、顎に手を当てたままそれ以上の言葉を返して来なかった。ここでの余計な詮索は危険なので、彼女と一定の距離を保ちつつ歩みを進める。これから個別に事情聴取が行われるようで、警官が手を振って誘導を行っていた。誘導に従い流れるように改札を抜ける。結局、最後までベルモットは言葉を発しなかった。
事情聴取が終わり、外に出る。何気無しにスマートフォンを見ると、ベルモットから駅前の喫茶店に来いとの連絡が入っていた。それにしても、どうやって東都まで帰ろうか。電車に乗って帰るにしても生憎ここは各駅停車しか停まらない駅のようで、上り列車の本数はそう多くないだろう。それにもう夕方である。こちらで一泊してしまうのも手だな、と考えながら駅前に1つしかない喫茶店のドアを開けた。ベルモットはすぐに見つかり、彼女と対面するように座る。お冷を持ってやって来た店員に、ホットコーヒーを頼んだ。
「どうしたんです?こんなところに呼び出して。先に帰っているかとばかり思いましたよ」
「ずっと悩んでいたのよ。貴方に伝えるべきか否か。でも、漸く答えが出たみたい」
「何です?」
「レッドアイの事よ」
彼女がそう言った所で、頼んだホットコーヒーがやって来る。ごゆっくりどおぞぉ、と語尾を伸ばす店員の女の子に適当な笑みを返すと、ベルモットは呆れた顔を前面に出した。
「貴方、女癖が良いんだか悪いんだか、分からない男ね」
「人当たりが良いと言って下さい。それで、彼女がどうしたんですか?」
「あの子、今夜ハニートラップの任務が入っているわよ」
「…それで?」
「こんな所でお茶してていいのかしら、ねぇ、バーボン?」
ベルモットは試すような目で自分を見ていた。珈琲に口を付けながら、彼女がわざわざ自分にその情報を流してきた理由を考える。
「それを、僕に言ってどうするんです?」
「馬鹿ねえ。貴方、私が気付いてないとでも思ってるの?どんな女でも適当にあしらってきた貴方が、あの子に対する態度だけ違う…」
「……」
「全く、あの子も意地っ張りだけど、貴方まで意地っ張りなんて」
溜息を吐いたベルモットは椅子の背に掛けてある上着を着て、席を立った。帽子を被り、伝票を持つ。そうして一度自分の方に振り返ったと思えば、綺麗にルージュが引いてあるその口を開いた。
「あの子、忘れられない人がいるそうよ。4年前に振られたとか。ーー貴方に似ているそうよ」
「…そうですか」
「別に、あの子の元彼が誰か詮索する気は無いわ…それじゃあ、私は帰るわね」
そう言って踵を返したベルモットは、会計を済まし外に出て行ってしまった。その姿が見えなくなるまで見送ると、急いでスマートフォンを取り出す。調べるとやはりこの場所は各駅停車しか停まらないせいで、東都に帰るにはだいぶ時間が掛かりそうだった。少し出費はかさむが、タクシーで帰るのが最善だろう。
彼女の任務の内容は全く分からない。何処で、何時からかも分からない。それでも。
「やってやるさ…」
どんな手を尽くしても、彼女の任務を妨害してやろうと、そう思った。
お題配布元:確かに恋だった
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