タクシーに飛び乗り東都に着いたのは夕方もとうに過ぎた夜の19時過ぎだった。組織の本部に行くか、彼女の自宅に行き資料があるか探るか。組織の本部に行った方が情報が得られる確率は高いが、元々彼女の任務に関わる理由がない身だ。余計な詮索を入れられ、お互いが目立つ結果は極力避けたい。可能性は低いが先ずは彼女の自宅に行くことにした。運転手に自分の自宅マンション付近で降ろしてもらい、ベルモットに未だ返していなかった彼女の家の鍵を引っ掴んで駐車場に向かった。そのまま愛車に滑るように乗り込み、前に不当な方法で知った彼女のマンションへと急ぐ。彼女のマンションに着いたのは、19時半前。駐車場に彼女の愛車であるレッドのBMWカブリオレは停まっておらず、彼女は既に任務に向かった事が分かった。
小走りで彼女の部屋に向かう。ロック解除がもどかしく感じた。漸く彼女の部屋に入り、パソコンを探す。するとリビングの机の上に書類が何枚か放置されていた。手に取り目を通す。
「運はこちらについているようだ…」
書類は今日の任務に関するもので、場所、時刻、ターゲットなど全ての情報が記載されていた。これさえあればわざわざ本部に寄る必要は無さそうだと口角を上げる。書類によると、レッドアイが潜入する予定のパーティーの開始時刻は20時になっていた。現在時刻は19時40分…あまり時間がない。兎に角パーティー会場のあるホテルに向かおうとバーボンが玄関に足を向けた時、それは目に入った。
「これは…」
キッチンの台に見覚えのある小さな箱が置いてあった。それは20歳のクリスマスに彼女に贈ったペアリングの箱と似ていたが、同じものとは限らない。あれから9年も経っているのだ。同じものである確率は零に近かった。
吸い寄せられるようにそれを手に取り、蓋を開ける。するとそこには数年前と何ら変わらない輝きを放つリングが静かに鎮座していた。
「名前…」
台座から指輪を抜き、握りしめる。彼女がこのペアリングを未だに取っておいてくれたのが素直に嬉しく、また再開してからあまり良いとはいえない反応を返されていた身としては目頭にくるものがあった。指輪を箱に戻し、ポケットにしまう。そうして今度こそ彼女の部屋と別れを告げた。
夜の東都の街を走り抜ける。道は空いていて、目的のホテルまでは30分もかからず到着出来そうだ。
今夜の彼女の任務は、とある資産家が守る金庫の鍵を得ること。その金庫には指紋認証、カードキーの他に声帯認証のロックがあり、開錠するのに資産家の声が必要になるそうだ。声真似ならベルモットが得意だが、万が一ミスしてしまうと一生開かなくなってしまう作りだそうで、その万が一を避けるために彼女にこの任務が与えられた。
男の名前を見ると、公安でも要注意人物リストに上げられていた人物だということに気付く。一般人でないなら遠慮はいらないと思うのと同時に、彼女の身が心配になった。彼女はそう簡単にやられないとこの間の任務や過去の経験から分かっているが、それでも好いている女のことだ、心配せずにはいられなかった。
アクセルを更に踏み込み愛車の速度を上げる。法定速度をやや超過したスピードで走れば、直ぐにホテルのエントランスに到着した。ベルボーイが車を動かそうと気を利かし運転席側に回ってくるのを止め、自分で駐車場に停めるとの意思を伝える。他人に運転されることに抵抗は無いが、盗聴器などを仕込まれる可能性を考え信頼出来る相手以外には運転席に座らせないようにしていた。駐車場に回り、車を停車させる。万が一のために携帯している拳銃と手錠を助手席のボードから取り出しポケットに仕込ませ、急いで車を降りた。時計は20時10分を指している。
車から降りたバーボンは、ターゲットのボディーガードを務めている男を探した。本日のターゲットは普段からボディーガードを横に2人もつけていて、用心深いことで有名である。1人はパーティー会場の中にいるだろうが、もう1人は恐らくーー。名前が持っていた資料の中には今夜ターゲットが予約している部屋番号までもがご丁寧に記載されており、今夜ばかりは組織の用心深さに感謝した。記載された部屋まで急ぐ。目的の階まで着くとやはりと言うべきか、ある部屋の扉の前に屈強な大男が立っていた。ゆっくりと歩み寄り、男の目の前で立ち止まる。男は訝しげにこちらを見たが、無駄は省くタイプなのかあからさまに敵意を剥き出しにしてきたりはしなかった。
「すみません、部屋に入りたいのですが」
「部屋をお間違えでは?此処は今夜ボスが借りておりますが」
「おかしいですね…確かに1473号室とフロントで言われたのですが…」
ええっと、何処にやったかな。そう言いながらポケットを探る仕草を見せると、男は暫くジッとこちらを見ていたがそのうち興味が削がれたのかこちらから視線を外した。その好機を逃さず、男の鳩尾に拳を一発入れる。意識を失いずるずると壁に寄り掛かる男のポケットに手を差し込めば、そこには一枚のカードが入っていた。この部屋のカードキーだ。
「20時30分…思ったよりも時間を取ってしまったな…」
部屋のロックを解除し、中に進入する。伸びてしまった男を中に引きずり込んだバーボンは後ろ手で手錠を嵌め、ついでに男のネクタイを外し口に噛ませるように縛り上げた。念には念を入れて、部屋に放ってあったバスローブから腰紐を抜き取り男の足も縛り上げる。
「さて、彼らが帰ってくる前に見つけ出さなくては」
ーー直ぐに彼女を取り戻して帰れるように。
腕を捲った降谷は、手始めにナイトテーブルの引き出しを開けた。
お題配布元:秋桜
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