カーテンすら付けていない部屋のせいか、はたまた時差のせいなのか。名前は自然と目が覚めてしまった。無言でナイトテーブルに置いたスマートフォンに手を伸ばし時刻を確認すると、まだ朝の5時だった。そのまま端末を操作し、組織からの連絡があるか確認する。一件も入っていない事が分かると、彼女は乱雑にスマートフォンを放り投げた。そして腕を目元に置いて視界を真っ暗にする。

「目元が赤い、か…。気をつけないと…」

まさかクリスに気付かれるくらい泣いてしまったとは、と名前は自己嫌悪に陥っていた。忘れたくても忘れられない。チラリ、と目線をやった先にはあの箱が置いてある。捨てようと思ったことなんて、何度もあった。



4年前の冬、名前は25歳だった。しがないOLであり、また降谷零の彼女でもあった。彼とは付き合って8年目の冬を迎えようとしていて、旧友や同僚からは結婚間近か、などと騒がれていた。勿論、彼女自身も彼との結婚を意識していた。

ただ、彼女には秘密があった。それは自分が国際的な犯罪組織に所属しているという、余りにも大きな秘密だった。

彼を騙そうと思っていたわけではない。いつも何処かで罪悪感を抱えながら過ごしていた。別れなければならない、彼のためにも早く離れなければならない、名前の心の奥底にはいつもその思いがこびり付いていた。その思いは高校を卒業し、大学在学中に彼から警察になろうと思う、という相談を受けた時から更に強くなった。

だが、彼女には彼が必要だった。彼は彼女の生きる道になってくれた。生まれた時から黒く染まっていた自分が唯一、生きていても良いのだと思えるのが彼の隣だったのだ。今更彼と別れるなんて、況してや彼を手放すなんて出来なかった。

大学を卒業した後、彼は警察学校に通い始めた。名前は広告関係の仕事につき、日々仕事に励みながら組織の依頼もこなしていた。皮肉にも彼は警察学校でトップの成績だったようで、卒業が決まって警視庁に配属になった時には名前に喜んで報告してくれた。


いつか手を離さなければ、そう思いながら日々は過ぎていく。警視庁に入庁した彼はその能力でどんどん事件を解決していき、少し経てば先輩からも頼られる後輩になっていた。嬉しそうに笑顔でその日起きた出来事を話す彼の声を聞くと、幸せだと思う反面、後ろめたさがあった。彼が挑む事件に自分が関わった事件があるのではないか。今は無くとも将来ずっと無いとは限らない。


この頃からだ、彼女が組織を抜けようと思い始めたのは。

お題配布元:確かに恋だった

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