4年前の冬に起きた出来事は今でも鮮明に思い出せた。忘れよう、そう思っているのに、現実はそうはいかない。目元から腕を退けた名前がスマートフォンで時刻を確認すれば、7時になっていた。もぞもぞとベッドから抜け出し洗面台へ向かう。鏡を覗き込めば、そこには情けない顔をした4年前の自分そっくりな自分がいて、名前は泣きそうになった。その事実を消すように水で顔をザバザバと洗う。今日は仕事だ。早く気持ちを切り替えねば。
タオルで顔を拭い、パジャマから着替える。それらを洗濯機に放り込み、彼女はキッチンに向かった。


「日本に着いて初めてのご飯がこれとはね…」


名前が手にしているのは卵サンドだ。昨日ベルモットに送ってもらった時にコンビニに寄ってもらい購入したものだった。朝から過去を思い出していたせいか、食欲がない。中々減らない卵サンドを一緒に購入したミネラルウォーターで流し込んでいく。食べ終わった名前は歯を磨き、軽く化粧をする。口紅を塗り終わった時、時刻を確認すれば針は8時半を指していた。
日本に来たばかりで足が無い彼女は、早めに自宅を出た。軽く手を挙げて目の前を走っていたタクシーを停めて乗り込む。行き先を告げればタクシーは軽やかに走り始めた。


「この辺で大丈夫です」

まさか目の前まで送ってもらうわけにはいかないので、近くにタクシーを停めてもらう。組織の本部に着くと、ベルモットが彼女を迎え入れてくれた。

「昨日ぶりね。よく眠れた?」

「ええ、お陰様で。何から何まで本当にありがとう」

「射撃場でジンが待っているわ」

行きましょう、そう言って歩き始めたベルモットの後に続く。射撃場に着くと、キャンティとコルンがシュミレーターを使ってケビン・ブラウンを暗殺していた。どうやら2人は600ヤードが限界だったようで、お互い650ヤードの暗殺に失敗している。その様子を見ていたジンが口を開いた。

「来たな、レッドアイ」

そのまま口を閉じたジンは顎でクレーンを指し示す。彼の意図に気が付いた彼女は、黙って3つ目のクレーンに乗り込んだ。

「キャンティ!そいつにライフルを渡してやれ」

「久しぶりだね、レッドアイ。あんたの腕が鈍ってないことを期待するよ」

そう言ったキャンティは名前に自らが持っていたライフルを渡した。ライフルを構えた彼女は先程2人が失敗した650ヤード先のケビン・ブラウンを暗殺しようとライフルを構える。タイミングを見計らって彼女がシュミレーターのボタンを押そうとした瞬間、それまで傍観していたジンが再び口を開いた。

「700だ」

「ちょっと、ジン!」

「レッドアイ。出来るな?お前の存在意義、忘れたわけじゃねぇだろう」

「ええ、勿論」

「ちょっと、レッドアイ!700ヤードなんで無茶よ!」

ベルモットの言葉を耳に入れながら、名前は設定を650ヤードから700ヤードに変更する。両隣ではキャンティとコルンが興味深そうに、そしてどこか楽しそうに自分を見ていた。名前はシュミレーターの作動ボタンを押す。


700ヤード先のケビン・ブラウンは自宅で優雅にお茶をしていた。椅子に深く腰掛け、何かを読んでいる。名前にとって好都合だったのは、彼が背の低い椅子に座り此方側に後ろ姿を見せていることだった。いくらシュミレーターといえども、人を殺すのは何度経験しても気分が悪い。しっかりと照準をケビン・ブラウンの後頭部に合わせた名前は、一切の迷いなく引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐにケビン・ブラウンの後頭部に向かって飛んでいき、彼の頭部を貫通した。

「…こいつ、当てちまったよ」

「すごい」

キャンティ、コルンの感嘆の声を聞きながら構えていたライフルを下す。チラリとジンを一瞥すると、彼はフンと鼻を鳴らした。

「安心したぜ。腕は落ちていないようだな」

「ありがとう、まさか貴方に褒めてもらえるなんて」

「馬鹿言え、褒めたわけじゃねえ。キャンティ、コルン、レッドアイ…仕事だ」

クレーンから降りてキャンティにライフルを返す。ライフルの重みはまるで命の重みのようで嫌いだった。先に射撃場を去ったジン達を追う。

私はいつになったらこの無限ループから出られるのだろう。私は自分の命を守るために、他人の命を奪うのだ。今日も、そしてきっとこれからも。

お題配布元:確かに恋だった

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