エディPでの狙撃は再び降り出した雨により失敗し、名前達一行は計画を立て直すためある倉庫に集合した。名前がそこに着いた時、ジンの車はあったが他の車は見当たらずキャンティ達はまだ到着していないことが窺(うかが)えた。
「悪かったなレッドアイ…狩りを中止にしちまって」
「別に気にしてないわ…快楽殺人者でもあるまいし」
車から降りた彼女は再び煙草に火をつける。しばらく煙草を燻らせていると、キャンティとコルンの車も到着し新たなる指令がジンの口から語られた。
「16時頃DJは車で橋の上を通る…そこが暗殺場所だ。今回、キャンティとコルンには援護に回ってもらう」
「え、援護だって!?」
「俺、打ちたい」
彼女らの抗議の声を聞き流しながら名前は灰を落とす。ふと、近づいて来るドリフト音に目を向ければヘルメットを被ったベルモットが名前の近くにバイクを止めた。話を聞く限りDJはキールが仕止めるようで、両脇のボディーガードをキャンティとコルンが担当するようだ。自分の役割は何なのだろうと名前がぼんやり考えていると、ジンからレッドアイ、とコードネームを呼ばれた。
「お前は今から別任務だ。あるパーティーに潜入しとある男から情報を持ってこい」
「……了解」
「詳細は後でメールする。お前は組織の本部に向かいバーボンと合流しろ」
「バディがいるの?」
「生憎バディがいなきゃ入れねぇパーティーでな。ご不満か?」
「別に」
そう言った名前はポケットから携帯灰皿を取り出し、短くなった煙草を押し付ける。そして愛車の運転席に滑り込み、彼女はエンジンをかけた。
「じゃあ私、行くわね。健闘を祈るわ」
アクセルを踏み込む。バディがいるパーティーなんていつぶりだろうか。彼女の鞄の中にあるポーチにはAPTX4869が入っている。後でそれをキャミソールの隠しポケットに移し替えなければいけないなとぼんやり思った。
彼女が組織の本部に着いた時、雨は上がっていた。地下の駐車場に車を止め、ライフルケースはそのままに鞄だけ手に取った彼女は愛車を施錠する。片手で携帯を取り出しジンから届いたメールを確認しながら建物の中に入ると、下っ端の男が名前に駆け寄ってきてバーボンは会議室1で待っていると伝えられた。ありがとう、とその男に返し彼女は歩みを進める。
果たしてバーボンとはどのような男なのだろうか。彼女がイギリスに行く前までは聞いたことがないコードネームだったので、その間に組織に入った者なのかと思ったが、ただ単に自分が知らなかっただけの可能性もある。兎に角、今夜バーボンとバディを組みパーティーに潜入しなければならない事実は変わらないので、第一印象は良くしようと思った彼女は笑顔を作って会議室1の扉を叩いた。
「お待たせしてごめんなさい、私がレッドアイです」
「いえ、こちらも今来たところですので。初めまして、僕がバーボンです」
そう言ってくるりとこちらを向いた彼の顔を見た瞬間、時間が止まった。どうして、何でここに。そう言いたくても、まるで声の出し方を忘れてしまったかのように声が出てこない。彼は警察組織に所属していた筈。何故こんな、犯罪組織に彼が。
そこまで考えた瞬間、彼女の中でカチリとピースがはまった。4年前、よく仕事の話をしていた彼がある時期を境に一切仕事の話をしなくなった。当時は彼女自身も忙しくあまり気に留めていなかったが、これは彼が公安警察に引き抜かれたという合図だったのだ。つまり、彼は日本警察からのノックである。
彼はずっとこちらを見ていた。その顔には驚きの表情が表れたが、それも一瞬で隠れてしまう。成る程、彼は優秀な諜報部員の様だ。それでも、一向に視線を逸らそうとしない彼に4年前とは違い彼女から視線を逸らす。
「資料はジンからメールが来ていると思います。今夜は宜しくお願いします」
「……こちらこそ、」
「それじゃあ、もう会場に行きましょうか。幸いホテルの近くに組織の息が掛かったサロンがあるのでそこで支度をしましょう。車はお持ちですか?」
「ええ」
「そうですか。私も車があるので、会場で落ち合いますか?」
「いや、今夜はパーティーなので僕が運転させて頂きます。レッドアイは助手席でお願いしますね」
「了解しました。…行きましょう」
彼に背中を向けて歩き出す。声が震えないか心配したが、私の声帯は思ったより優秀だった様で何時もの声を出せた。後は、この泣きそうな顔を車に乗るまでにどうにかすれば良いだけだ。眉間にシワを寄せて目をギュッと瞑る。彼はきっと、私に聞きたいことが沢山あるだろう。裏切られたと思っているかもしれない。せめて、普通の女の子として。せめて、普通の人間として。
こんな黒に染まった私という姿で、再会を望んでいたわけではなかったのに。
お題配布元:秋桜
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