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「ん……」

ここは…どこ?

例えるならば、ふわふわとした気分だった。此処はとても静かで、先程までの雑音が嘘のようだ。それに、死体が焼けるような臭いもしない。薫るのは、仄かな桜の臭い。

「!?」

なまえはガバリと身体を起こした。そして自らの身体を見る。見えるのは包帯が巻かれている自分の身体。急いで辺りを見渡すと、そこには自分の他に3人の妖が存在していた。

「あ、目が覚めたんですね…良かった!」

そう言いながら冷気を纏った女が自分に近付いてくる。その手には瓶と杯が握られていて、自分に飲ませようとしているのが見てとれた。
…怖かった。妖が、怖かった。とてつもなく恐ろしかった。

「い、」

「?」

「いやぁぁああ!!」

ボン、と辺りに炎が渦巻く。雪女は突然現れた炎に驚き、かつ熱いものが苦手な彼女は逃げるように首無と毛倡妓の後ろに回った。そんな雪女を庇いながら、首無と毛倡妓は一気に充満し始めたなまえの妖気に警戒しながらも彼女を鎮めようとなんとかして彼女に近づこうとしていた。

「大丈夫だ。君を傷付ける奴は、もういないよ」

「………」

「だから、炎を消してくれるかな?」

一歩一歩、首無はなまえに近付いていく。そして、なまえまであと数メートル、というところまで迫ったときだった。

「なまえに、なまえにさわらないでぇ−っ!!」

先程よりも大きな炎が首無を襲う。急いで後退した首無は、角の方で震えている雪女に河童を呼んでくるように伝えた。

「けほ、首無…」

「………」

「あたしが髪で縛ってあの子の動きを止める。その隙にあんたはあの子を気絶させな。この調子じゃ、もう少しおねんねしてもらわないと…」

「毛倡妓…」

「間違ってもあんたの紐で縛るんじゃないよ!あの子はまだ、子供だ」

「わ、分かってる!」

「じゃあいくよ!」

毛倡妓は己の畏を発動させる。みだれ髪、遊女の舞。それは華麗になまえの炎を避け、彼女に巻き付いた。しかしそれが裏目に出たのか、動きを拘束されたなまえはよりいっそう怯え炎を大きくさせる。じわりじわりと毛倡妓の髪の毛は炎に侵食され、拘束が解けるのも時間の問題だった。

「首無!早く!」

「ああ!」

勢いよく辺りを燃やしている炎を避け、首無は確実になまえに近付く。彼女は今、毛倡妓の拘束を解くのに躍起になっていて自分に気付いていない。――今だ!

音もなく近付き、彼女に手刀を入れた。毛倡妓の拘束が解けるのと同時に、ゆっくりと彼女の身体が地に向かって倒れていく。それを首無が優しく受け止めたのと、河童によって操られた水が部屋に直撃したのはほぼ同時であった。
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