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ぼんやりとした光が部屋を照らす。先程出ていった妖怪達が少しだけ開けていった襖から外を覗くと、今が夜だということが分かった。
「……………」
自分の目の前にいる妖は何も言わずじっとこちらを見つめていた。布団をギュっと掴みながら、もうこれ以上端に寄れないのは分かっていたが、気持ちだけでも更に部屋の端に寄る。今、なまえは部屋の角に身を預けていた。少しでも妖から遠いに場所に行きたかった。
「…そう怖がるな、」
妖…ぬらりひょんはなまえに近付く訳でもなくただ、彼女を見つめている。――彼女は妖怪を怖がっている。そう悟ったぬらりひょんは彼女に無理に近付こうとはしなかった。あんなに酷い傷を負っているのだ、妖怪を怖がるなというのも無理な話なのだろう。
「大丈夫だ。ワシはお前さんを傷付けはしない」
「…………」
「その傷、痛いじゃろう?」
「…………」
「痛み止めだ。お前さんを手当てした鴆という者が作った。何、怪しいもんじゃない。飲みなされ」
言いながらなるべく彼女を怖がらせないよう、自分から見て遠い右端に置いた。つまり自分から見て遠い左端にいる彼女は少し移動すれば取れる位置にある。
「…………」
なまえは少し考え込むような素振りを見せた後、ゆっくりそれに近付く。そしてそこに置いてある杯をじっと見つめた後、一気にそれを飲み干した。
「〜〜っ!」
苦い。苦くて堪らない。げほ、と咳き込む。まだ、口の中には蔓延るように苦味が残っている。急いで横に置いてあったグラスに入っている水を口に流し込んだ。
「…苦いじゃろ?」
「……………」
こくり、と頷く。
「しかしのぅ、これまたびっくり…鴆の痛み止めは良く効くぞ。もうあまり痛くないじゃろ?良薬は口に苦し、じゃ」
確かに身体にあまり痛みを感じない。全く痛くないわけでもないが、先程までの鈍い痛みに比べればマシな方だった。
「……………」
この妖は、自分を傷付けるのではなく、自分を助けてくれた。なまえはそう思った。彼女はまだ子供である。子供であるが故にその警戒心を解くのは容易かったのかもしれない。兎に角。妖、ぬらりひょんはなまえの警戒心を少しだけ解くことに成功したのだ。あくまで少しだけ。痛み止めを与えることによって。
「……………」
グラスを置いたなまえは少しだけ、妖に近付いた。そのままぬらりひょんの真っ正面まで移動した彼女は、じっとぬらりひょんの目を見つめる。
「あ、ありがと…」
ちょっと恥ずかしそうに、そして少しだけ怯えながらそう言った彼女。ぬらりひょんはいいんじゃよ、と、嬉しそうに笑った。
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