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なまえがいない。幹部総会が終わった奴良組はその話題でもちきりだった。最後に接触した若菜から話を聞くと、特に変わった所はなかったという。ご飯を食べてもらうには苦労したが、それは何時もの事。
「あの子が、何かしたのですか?」
「…………」
不審に思った若菜はぬらりひょんにこう問うた。ぬらりひょんは難しい顔をしながら口を開く。
「…いなくなった」
「…!!」
そう聞くないなや若菜は急いでなまえに宛がわれた部屋に行き大きな音をたてるのも構わずに襖を開いた。そこには先程までいたはずの小さな少女の姿はもうない。一体何処に行ったのか。どうしてこんなことになってしまったのか。彼女が2つの疑問を抱いたちょうどその時、廊下から複数の嬉しそうな声が聞こえてきた。先程なまえを追い出せと言っていた幹部達が話していたのである。
「あの餓鬼出ていったらしいぜ、やっぱり刺客だったんじゃねえか?」
「ホント良かったぜ。これで安心して寝れるってもんだ」
「天国の鯉判様も笑ってるぜ〜きっと」
許せなかった。出会ってからたった数日ではあったが、自分の娘のように思えた彼女。そんな彼女があんな風に言われている事実は、若菜の心に火をつけた。怒りで震える拳を抑えようともせずに、若菜はその妖怪達に近付く。そして、
パシンッ――
中でも一番偉そうにしていた、その大男、1ツ目入道の頬を容赦なく打ったのである。驚いた1ツ目は、その場に倒れ込みはしないものの少しだけふらついた。周りの妖怪達は急いで彼を支えながら、彼を叩いた女――2代目奥方の若菜を見つめる。
「あの子が、どんな気持ちで、」
「……………」
相当興奮しているのか若菜の言葉は支離滅裂だった。しかし若菜はそれを気にせず、言葉を繋いでいく。
「震えていた。あの子は、あんなにも怯えていたのに!!」
「…………」
「鯉判さんを殺したのがあの子!?今度はリクオを狙ってるですって!?どうしてそんな事が貴方に分かるんですか!娘子ってだけでどうしてそう決め付けるんですか!!」
なんだなんだ、とわらわらと妖怪達が集まってきていた。それもそのはず。普段温厚な若菜がその怒りを隠そうともせずに1ツ目入道に怒鳴り散らしているのだ。ギャラリーは段々と増えていく。その中には、なまえを助けた張本人――黒羽丸もいた。
「毎夜毎夜、あの子は布団の中で泣いていたわ!かあさま、とうさま、死なないで、って。助けて、にいちゃん、って。そんな幼子を刺客だなんて、よくも、よくも言えましたね!!」
「若菜様、1ツ目入道様もきっともう充分分かっていると思いますのでそのくらいにしておいたほうが…」
見かねた首無が若菜の腕を掴み仲介に入った。今や奴良組にいるほとんどの妖怪がこの騒動を傍観している。だからこそ若菜のためにも、そして何より1ツ目入道のためにも、この場を早く治めなければ、と考えた結果であった。しかし若菜は掴まれた腕を振り切り、1ツ目に近付く。そしてその瞳に涙を浮かべながら、こう言い放った。
「天国の鯉判さんは、笑ってなんかいません。笑っているのは、貴殿方だけです」
「……………」
「妖怪任侠の世界は、たとえ怯える幼子にも容赦ないのですね。…本当に、見損ないました」
「…………」
失礼します、そう言って若菜はその場を去った。そのままなまえを探すため門から外に出た彼女の姿はどんどん小さくなっていく。一番始めに我に返った鴉天狗は、彼の娘であるささ美に若菜を護衛するように伝えた。連れ戻せ、と言わなかったのは彼なりの若菜に対する配慮である。
「…………」
廊下は不気味な程静まりかえっていた。誰も動こうとはしなかったし、声を出そうともしなかった。それは騒ぎを起こした張本人の1ツ目入道も同じで、若菜に叩かれた頬を擦りながらきまりが悪そうにしている。そんな中、動いた妖怪が1人いた。ぬらりひょんである。彼は廊下に見つけた何かを拾い上げ、闇に翳した。
「1ツ目よう…若菜が言ったこと、よ−く考えてみろ」
「…………?」
「これ」
そう言って彼は、手に持っているものを皆によく見えるように高々と掲げた。
「あの子の羽根だ。お前さん達が総会で言ったこと、聞いちまったんだろうよ、きっと」
「………………」
いよいよバツが悪くなった。1ツ目を始めなまえを追い出そうとしていた妖怪達はどうする、どうする、と額を寄せあっている。そんな様子を見たぬらりひょんは溜め息を吐きながら鴉天狗を呼んだ。
「あの子を探してくれ。こいつらを手伝わせて構わん。それくらいしてもらわなぁ−にゃあ…」
その言葉に二つ返事をした鴉天狗は急いで残った息子達を集め、指示を出すのだった。
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