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未だ泣き止まないなまえを抱き抱えた黒羽丸は漆黒の羽を広げてそれ同じ色の空に浮かんだ。暫く飛んでいると、彼の弟であるトサカ丸が見えた。

「おっ!見つかったのか」

黒羽丸の胸にいるなまえを見つけたトサカ丸は、じゃあ次はささ美と若菜様を探さんとな、と言って少し前を飛んでいく。相変わらずなまえは泣いていて、黒羽丸はどうしたものかと嘆いた。

「おいトサカ丸」

「なんだよ」

「何か面白いことをしろ」

「はぁ!?」

いきなり素っ頓狂なことを言い始めた兄にトサカ丸は顔をしかめ面する。真面目すぎてついに狂ったのか?いろいろ想像している百面相のトサカ丸の頭を錫杖の先端で軽く叩いた黒羽丸は、この子を泣き止ませるために決まっている、と飽きれ顔をした。

「あぁ〜…」

ぼりぼりと頭をかいたトサカ丸はどうしたものかと頭を抱えた。なまえは泣いたまま顔を上げようとしないし、そんな子をどうやって泣き止ませろというのか。散々考えた揚げ句良い案が浮かばなかったトサカ丸は、そのうち疲れて泣き止むんじゃね?と言って黒羽丸に殴られたのだった。

*

*

*

ささ美と若菜は案外直ぐに見付かった。黒羽丸は世話をしていた若菜になまえを渡そうとしたが、あれだけ妖怪を怖がっているなまえが以外にも黒羽丸に抱かれたままじっとしていた。それを見た若菜は笑ってそれを断り、そして5人は奴良組の門を潜(くぐ)った。ちなみに一ツ目達になまえが見付かった、とあえて伝えなかったのは若菜の案である。なまえは未だに泣いていたが、泣き疲れたのか先程よりは泣き方が大人しくなっている。

「お帰り」

そう言って出てきたのはぬらりひょんだった。黒羽丸の腕にいるなまえを見付けたぬらりひょんはなまえが見付かったこと、そして生きていたことに安心してホッと息を吐く。そして嬉しそうに笑った。

「………」

ぬらりひょんの声を聞いたなまえは顔を上げる。目の前にいる妖怪は先程襲ってきた妖怪とは違う笑い方をしている。何か言わなければ、そう思うなまえだったが嗚咽のせいで上手く言葉を操ることが出来ない。そんな彼女の様子を察したのか、ぬらりひょんは今日はゆっくり休ませてやれ、と言って黒羽丸に部屋に運んでやるよう言った。若菜はじゃあよろしくね、と言って黒羽丸になまえの部屋の場所を教えてやる。

「…………」

「…ひっく、」

異様にシンとした、そして好奇の目線が激しい廊下を歩き、彼女の部屋についた。そっと襖を開けて、中に入る。布団を敷いてやろうと黒羽丸がなまえを下に降ろそうとすると、それを嫌がったなまえは必死で黒羽丸の胸にしがみついた。

「嫌なのか?」

「…………」

黒羽丸の問いには決して答えようとはしなかったなまえだったが、一際黒羽丸の着物をぎゅっと掴んだことで黒羽丸には彼女の意志が伝わったようだ。そうか、と言った黒羽丸はなまえを片手に抱き直しそのまま布団を敷いてやる。

「敷けたぞ」

「…………」

ゆっくり顔を上げたなまえは自分を見下ろす黒羽丸の顔を見つめた。散々泣いたためか、目がだいぶ腫れていて痛い。それに気付いた黒羽丸はちょっと待っていろ、と言ってなまえを下ろし、何か冷やすものを台所に取りに行こうとする。が、なまえが相変わらず黒羽丸の着物を掴んで離さなかった。

「どうした?」

「……もうすこしだけ、」

もうすこしだけ、なまえのお側にいて

ぽつり、と呟いたなまえの声は嗚咽のせいかだいぶ掠れていた。ようやく止まってきていたはずの涙がまたぽろぽろと溢れだし彼女の頬を濡らす。自分の涙が黒羽丸を困らせているのはなまえにもちゃんと分かっていた。しかし涙は枯れることを知らないかった。

「にいちゃん…」

「…………」

夜は更けていく。涙を止める方法を知らない少女と、止めることが出来ない青年と共に。青年は思った。この子は自分に少なからず兄の影を重ねている。この子の兄は死んでしまったのか、生きているのか、はたまた自分と顔が似ているのか、雰囲気が似ているのか、そんなものは分からない。そもそもこの子の名前すら知らないのだ、自分は。何故あそこに倒れていたのかすら未だに分からない。しかしこの少女が弱っていることは知っていた。若菜様が言っていたように、毎晩泣いていたことだって実は知っていた。自分が拾った子、黒羽丸は様子がどうも気になってこっそり覗きに来ていたのである。兎に角、この子が自分を、いや兄を求めるなら答えてやろうと思った。それが今の自分に出来る全てだった。
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