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「ケホッケホッ…う−、さむい…」
「なまえ、風邪をひいたのか?」
なまえと一緒に遊んでいたささ美が軽い気持ちで彼女の額に手を当てる。
「これはっ……!」
次の瞬間、彼女はふらふらしているなまえを急いで抱き上げ部屋に向かって走り出していた。
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「40度…こりゃァ大変だ」
体温計を揺らした鴆はぴとり、となまえの額に手を当てた。じゅわり、と掌が焼ける音が聞こえてきそうな程彼女の額は熱い。ここ数年間で40度まで熱が出た妖怪はなまえ、ただ1人である。
「何したんだなまえ?あ?この真冬に水遊びか?それとも髪の毛濡らしたまま乾かさなかったのか?」
「あ、う………」
「鴆様、なまえが泣きそうなのでその般若みたいな顔付きをお止め下さい」
「お前はこいつに甘すぎるんだよ黒羽丸。ちっとくらい厳しくしてやらにゃ…」
ギュウ、と黒羽丸の着物の袖口を掴み、涙が溜まった瞳でなまえは鴆を見つめる。吐き出す吐息は熱く、彼女の体温の高さが感じられた。
「なまえ、みずあそびなんてしてないもん!ちょっと河童とにんじゅつ使ってただけだもん!」
「忍術?」
「にんじゅつ!」
なまえの言い訳はこうだ。彼女は最近リクオと一緒に見ていたテレビで放送されていたアニメに嵌まってしまった。そう、少年少女に今人気な某忍者アニメである。そのアニメは彼女に忍者に対しての憧れを抱かせ、そしてその憧れは彼女に忍術を実践させるまでに至ったのである。ちなみに言わずともなまえが使ったのは火遁系の技。河童が使ったのは、水遁系の技である。つまり、真冬にも関わらず彼女は頭から水を被っていたのだ。
「やっぱり水遊びしてんじゃねぇか!!」
「ちがうもん忍者ごっこだもん!」
「その忍者ごっこで頭から水被ったんだろ−が!」
「う………」
尤もなことを鴆に突っ込まれ言い返す言葉が見当たらないなまえは、彼の視線から逃れるように更に強く黒羽丸の袖口を握った。身体が燃えるように熱い。彼女の体温はいっこうに下がらず、寧ろ段々と上がってきているようだった。薬も飲んだし少し寝ろ、そう言って鴆は部屋を出ていった。勿論、「熱が下がったら説教だかんな!」と言う言葉を言い残すことも彼は忘れない。
「うぅ…鴆さまのおせっきょう嫌…」
黒羽丸は苦笑いをしながらなまえの頭を撫でる。触れるその身体はやはり熱くて、いくら彼女の基礎体温が普通の妖怪よりも少し高いことを知っている黒羽丸でも、心配になるくらいだった。
「辛いか、なまえ」
「つらい」
「嫌なら真冬に水遊びなんてしちゃダメだ。何で直ぐに言わなかった」
「だってぇ……」
「だっても何も無い」
「ごめん、なさぁいっ!」
初めから涙目だった彼女の瞳には更に雫が溜まる。ポロリポロリと涙を流し始めたなまえを抱き上げた黒羽丸はあやすように背中を一定のリズムで叩いてやった。その間に汗で湿った着衣を変えてやる。触れる黒羽丸の冷たい手(鴉天狗の手は基本的に冷たくはないが、今のなまえにはそう感じられた)が気持ちいいのか、彼女は黒羽丸にすり寄る。そんななまえの緩い拘束をやんわりと解いた黒羽丸は彼女を敷いた布団に寝かせた。
「鴆様が怒ったのは、なまえが心配だったからだ。勿論俺も驚いたし、心配した」
「…ひっく、う、ん」
「熱が下がったら一緒に謝りに行こうな」
「う、ん……!」
寝かしたなまえの頭を撫でてやりながら黒羽丸は続ける。
「あといくら“忍者ごっこ”でも真冬に頭から水を被るのは良くない。それは雪女が部屋に籠りだしたらだ」
「つらら、籠るの?」
「あぁ。雪女は暑いのが苦手だろう?」
「うんっ!つららってばね、なまえの炎を嫌うのよ!」
何でだろうね−、と首を傾げる彼女の頬にはもう涙は流れない。一緒にいてやるから、少し寝るんだ。と黒羽丸に言われたなまえは漸(ようや)く瞳を閉じた。そして彼女は、熱があることもあり、直ぐに眠りの世界へと引き込まれていった。
「鴆さま、あのね…」
「あ?」
「……っ、あのね…!」
「……………」
「ご、ごめんなさぃぃい!!」
「あっおいなまえ…!」
「鴆様、なまえはこの間のことを謝っているのです。そしてなまえを泣かすのはお止めください」
「顔が怖ぇぞ黒羽丸…」
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