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「では明日まで高尾山に帰らせていただきます」

「おぅ。気を付けてな」

黒羽丸はうつらうつらしているなまえを抱えあげた。除夜の鐘が鳴るまでは頑張って起きていたなまえも、流石に限界が近いようだ。

「なまえおきてるよ…おきてるもん」

そんな譫言(うわごと)を言いながらも瞼はくっつきそうなほど下がり、身体からは力が抜けている。

「眠いなら寝てもいいんだぞ」

「なまえねむくない!おきてる!」

ごしごし、と眼を擦る。赤くなるからやめろ、と黒羽丸がその腕を掴んで制すと、うう−、と機嫌が悪そうに唸った。

「ねむい…」

「結局眠いんじゃねぇか」

「ねむくない−っ!」

「はいはいわぁったよ…」

トサカ丸にそう反論しながらも眠気が限界のなまえはパタリと黒羽丸の肩に頭を預けた。黒羽丸の身体は暖かくて、眠気が倍増したように思える。バサリ、羽根を広げ空に飛び立つ4匹の鴉。夜空を飛んでいるとびゅうびゅうと冷たい風が頬を打つ。

「さむい…」

なまえはスリ、と黒羽丸にすりよる。黒羽丸がなまえの身体を触ると成る程、彼女の身体は冷たい。そこで黒羽丸は自分の上着の中に彼女を入れてやった。ひんやりと冷たい空気が入ってきたがそこは兄貴、我慢である。

「あったか−い…」

そう言って暫くは黒羽丸の上着の中でもぞもぞと動いていたなまえだが、その内に眼を閉じて眠ってしまった。

「ってやっぱ寝てんじゃねえか…」

「グッスリだな…」


*

*

*


高尾山の奥地についた頃には初日の出が上っていた。4羽の鴉天狗は静かに1つの建物へと降り立つ。ガラリ、と扉を開けると彼等の母である濡鴉が快く迎えてくれた。勿論、その際に鴉天狗を布団叩きで叩くことも忘れない。

「ギャァァァア」

「毎度のことながらすごい光景だな…」

「ああ………」

「んんっ…」

「「「!!」」」

トサカ丸とささ美が黒羽丸の言葉に相槌を打っていると、黒羽丸の肩にいる赤い塊がもぞりと動いた。どうやらこの騒動でなまえが起きてしまったようで、本人はくぁ、と欠伸を溢しながら眠そうに眼を擦っている。

「やべっ…っ!」

「マズイ!」

黒羽丸達三羽鴉がこの状況(鴉天狗が濡鴉にしこたま叩かれている状況)を彼女に見られるわけにはいかない、と思った時にはもう遅かった。なまえは目を点にしながら鴉天狗を見、濡鴉を見、そしてまた鴉天狗を見て、ぶるぶると唇を震わせている。あ、こりゃ泣くな、と黒羽丸達が思ったのと同時に

「うわあああん!!」

やはりなまえは火がついたように泣き出した。どうにかして彼女を泣き止ませようと黒羽丸は背中を撫でたり優しく揺すってやったりするのだが、何故か今日に限ってどうしても泣き止まない。とうとう困り果てた三羽鴉の前に、彼等の父親をしこたま叩き終えた濡鴉が現れた。叩かれ続けた鴉天狗は部屋の角に血だらけで転がっている。

「げっ母さん…」

「母に向かってげっ…とは何よ、トサカ丸!あんたも焼きを入れられたいようねぇ…」

「遠慮しときます…」

布団叩きを振りかざしながら般若のような顔付きでそう聞いてくる母にトサカ丸は恐怖を感じたそうな。ヤベぇ、余計なことを言ったら殺される…そう思ったトサカ丸は素直に頭を下げ母に許しをこうた。トサカ丸の懇願をフン、と鼻で笑い一別した濡鴉は次に未だ泣いているなまえを黒羽丸の腕の中から素早く奪い去った。

「か、母さん…!」

驚いた黒羽丸は母からなまえを取り返そうと手をのばす。しかしその手は濡鴉にぴしゃりと叩かれ、行き場を無くした。黒羽丸は宙に浮く手のひらの向こうにいるなまえを心配そうに見つめる。すると濡鴉は泣いているなまえを以外にも優しくあやしていた。

「ごめんね、ビックリしちゃったかしら?」

ひっく、と、ときたま嗚咽を漏らすなまえの背中を叩いてやりながら涙を拭ってやる濡鴉。三羽鴉はそこに母の面影を見た。そう、腐っても母は母なのである。優しくて、強い母。証拠に先程まで泣いていたなまえが泣き止んでいる。

「まぁ−可愛いお顔になったこと。名前は何ていうのかしら?」

「わたし、なまえ!」

「なまえ、良い名前ねぇ…。私は三羽鴉の母親。濡鴉っていうのよ」

「くろ−まるのお母さま?」

「そ−よ、そう」

「お母様!」

嬉しそうに笑ったなまえは濡鴉に飛び付いた。その様子を見ていた三羽鴉は驚きに目を見開く。なまえは過去に家族を殺されてからというもの、妖怪に対してとても臆病なところがある。それが初めて会う妖怪なら尚更だ。そんな子が本日初めて会った濡鴉を怖がる様子を微塵も見せないのだ。

「濡鴉、さま…?」

「やだわ、この子ったら…さっきみたいにお母様でいいのよ」

「おか−さま!」

「そうよ、私はなまえのお母様よ」

まるで本物の親子の様にお互いの額をコツンと合わせながら喋っているなまえと自分達の母を見つめながら、三羽鴉は何だか暖かい気持ちになっていた。幼くして家族を無くしたなまえ。少しでも家族の温もりを、母の温もりを感じて欲しいと、切に思った。



「ねぇ、黒羽丸?」

「どうしたんだ、母さん?」

「あの子、私にくれないかしら?」

「!?」

「かわいいわよね〜私のことお母様、って言って離れないのよ」

「いや、いくら母さんでもなまえは…」

「い−や、なまえは貰うわよ!母さん、ちょうど可愛らしい女の子が欲しかったのよね〜」

「絶対ダメだ−!!!」

母親は女の子にとって特別な存在!

明けましておめでとう!
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