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「うぅ…っ」
「…………」
また魘されている。静かに起き上がった黒羽丸は隣に寝ている彼女の汗をそっと拭いてやった。苦しそうな顔でシ−ツを強く掴む小さな手を包み込んでやると、幾分かその力が弱まる。しかしシ−ツの皺は増すばかりで、彼の眉間にも皺がよった。
ここ最近、なまえは“あの夢”をまた見るようになった。彼女が全てを失った、あの日。それが彼女の中で何回も何回も、それこそビデオテープのように繰り返されている。そして彼女によると“それ”はいつも同じ箇所で終わるのだ。
「に、いちゃ、ん…」
そう呟いたなまえは手を伸ばした。その手は丸で兄を探しているかのようで、黒羽丸はいつもその手を取る。たとえ、その手が求めているのが自分では無いと分かっていたとしても。その事実から目を背け、黒羽丸は必死に彼女を“繰り返されるあの日”から救おうと手を取るのだ。
「に、いちゃ、ん…どこ?」
目尻から一筋の涙を流したなまえは必死に彼の手を掴む。強く、強く。離れないように。離れることが、無いように。そんな彼女を見ながら、彼は今日も同じ言葉を口にするのだ。“「兄はここにいる」”と。その言葉が真実かどうかは、誰にも分からない。だけれど、その言葉を聞くと彼女は丸であの日から解放されたように安心して眠りにつく。だから黒羽丸は今日もその曖昧な言葉を彼女に囁くのだ。
ふと、昔を思い出した。なまえが奴良組に心を開く第一歩となった、あの日。あの日もなまえは泣いていた。縁側に腰掛け空を見つめながら、泣いていた。
「むかえに、きてよ…」
そう言って泣きじゃくったなまえの姿は忘れない。忘れることが、出来ない。
「迎えに来るまで、俺が兄貴になってやる」
今となっては、これが良い約束だったのか分からない。彼女の兄は恐らく死んでいる。迎えに来ることなど、永遠に無いのだ。きっとなまえも分かっているだろう。分かっているからこそ、夢のなかで兄を待ち続けているのかもしれない。
すやすやと眠る彼女をギュっと抱き締めた。“迎えに来るまで”とあの時は言った。今は、一生彼女の兄でいてやりたいと思う。そんなことを思いながら、黒羽丸は今日も目を閉じるのだ。
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