▼ ▲ ▼
「にしても焦ったな〜」
夕方よりも少しだけ早い、世間一般ではおやつの時間と言われる時刻。リクオ達より一足早く奴良家に帰宅したなまえは廊下を歩いていた。あれから直ぐに昼休みがもうすぐで終わることを告げるチャイムが廊下に鳴り響いたため、3人は急いで自教室に向かっていた。そんな時ふとカナが呟いた言葉。
「そう言えばリクオくん、なまえちゃんのこといつから呼び捨てにするようになったの?」
「「!」」
「最近まで、なまえちゃん、て呼んでたよね…?」
あれ、気のせいだっけ…?と首を傾げるカナに慌てて2人は弁解の言葉を並べる。カナは納得していないような、疑っているような、そんな顔だったがなんとかその場を切り抜けることが出来た。
「あ〜れはリクオ様のミスだろ、うん。なまえは悪くない」
「何がだ?」
「わっ!」
いきなり後ろから現れたトサカ丸に驚きなまえは前につんのめってしまった。バタバタと手を動かしどうにか重心を後ろへ動かそうと四苦八苦していると、トサカ丸に続いて現れた黒羽丸が彼女の腕を引き重心を真ん中へ戻す。
「んも−、ビックリした!いきなり現れないでよトトちゃん」
「わり〜わり〜」
「ちっとも反省してないでしょ!」
「んなことねぇって、」
「ムカツク−!!」
ムキィ、と奇声を発しトサカ丸に掴みかかろうとするなまえを止めた黒羽丸は暴れる彼女を引き父親のいる部屋へと向かった。
*
*
*
「此処と、此処、あと此処を重点的に回れ」
「ほ〜い」
「分かった」
「では頼んだぞ」
所々に赤い印が付けられた地図を見る。赤い印は広範囲に渡っていて、全てを回るには随分と時間がかかるように思われた。
「はぁ…」
旧校舎での一件があってからは、奴良組お目付け役の見回り範囲は広がるばかりである。どうやら思っていたよりも奴良組の弱体化は進んでいたようで、旧校舎にいた見知らぬ妖怪の数の多さがそれを物語っていた。そこでお目付け役の見回り範囲を広げ、何か行動を起こされる前に見つけ出し退治するという処置が取られることになったのだ。毎朝なまえが寝坊する理由はこれである。今までの夜の見回りでさえ彼女の寝坊の理由になっていたのに、今回この処置が取られることになってからは彼女の寝坊は更に酷くなったように思えた。ついつい抑えきれなかった彼女の溜め息に黒羽丸は苦笑を漏らした。
「そういえばなまえ」
「?」
「リクオ様は本日御学友の家に遊びに行ったと言っていたな」
「あぁうん、なんか呪いの人形だか何だかを見に…」
私は行けないから、雪女に代わりに行ってもらうように頼んできた、そう話すなまえに鴉天狗は頷きリクオ様も御自分から妖怪(と思われるもの)に触れ合いに行くなんて…、と感激の涙を溢す。一方のなまえはそんな鴉天狗の様子に眉を寄せ、リクオ様の考えは違うと思うけど、という呟きを漏らした。
そうなのだ。彼はこの間の一件を全く覚えていなかった。なまえからすればそれはなるべく蒸し返したくない一件だったのだが、いつまでも逃げていられない。だから今日、放課後清継の家に向かう前のリクオに話を切り出したのだが…
「何のこと?」
「へ?」
「ごめん…僕、燃えてた鴆君の家に突っ込んで…あの…その、なまえの本音を聞いた辺りからの記憶が無いんだ」
「!?」
「僕、何か変なことしてなかったよね?」
「……ぁああうん!」
「ホントに−?」
「ホントだってば〜〜っ!このなまえの言葉を信じられぬと言うのか!」
「だったらいいけど…」
目を細めて怪しげな顔で見つめてくるリクオにあはは、と渇いた笑みを返したのは記憶に新しい。別に忘れてしまったならそれで良い。寧ろ好都合である。でも…何処か納得いかない。だってあの時のリクオ様(仮)は、少なくともいつもの彼とは違い3代目を継ぐ意志があった。
不満そうに唇を尖らしたなまえはするりと未だに感激の涙を溢す鴉天狗の部屋から出て、今にも飛び立とうとする兄貴分の後に続いたのだった。
[
BACK]