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鴆編

「ただいまっくす−!」

「何、その挨拶の仕方」

「リクオ様知らないのんだくれ!今流行ってるんだようかん」

「はいはい、なまえの中だけでしょその流行」

玄関で靴を脱いだなまえとリクオが見たのは、高級菓子を食べる小妖怪達。リクオは冷や汗をかき、なまえはパアッと顔を輝かせた。

「じ−ちゃん!まさかまたどっかから盗んだの!?」

「納豆!なまえにも1つ!」

「はいよ−」

包み紙をぺりっと剥がして口に入れる。甘過ぎず、しっとりとした食感で。実に美味しい。

「人間に迷惑かけたら僕が白い目で見られるんだからね!」

リクオは相変わらず総大将に怒っていて、そんなリクオの口になまえは1つ菓子を詰め込んだ。

「わっ…」

「美味しいでしょ?」

「う、うん」

モゴモゴ、と口を動かすリクオに納豆小僧が事の真相を話す。それを聞いたリクオは、急いで客間に向かったのだった。

「なまえも会いに行く?」

「とりあえずリクオ様だけで会ってきなよんさま」

「もう止めなよそれ…」

ハァ、と溜め息を吐いたリクオにじゃあね−!と手を振ったなまえは黒羽丸の部屋に向かった。…鴆様に怒られないといいけど。なんとなくこれから起こることが想像出来てしまったなまえは、ぶるりと震えた。

「ただいまんもす!」

「お−おかえり〜」

黒羽丸の部屋にはトサカ丸とささ美もいて、3人は笑顔でなまえを迎えた。鞄を下ろしたなまえは早速黒羽丸に突進する。

「なまえちゃんアタ−ック!」

「うわっ…!」

「なんだそのセンスのない技名!」

ありえね−!とゲラゲラ笑うトサカ丸に一発蹴りをお見舞いしたなまえはごろりと寝転がり鞄の中の漫画に手を伸ばした。

「なまえ」

「なに−?」

「鴆様に会いに行かなくていいのか?」

「……うん」

「なんだその間は」

「………あは」

そう気が長くない鴆様が今の状態のリクオに会ったらキレるのは目に見えていた。そう分かっていたからこそ、彼女はリクオに1人で行かせたのだ。酷い女と言われればそうかもしれない。けれど、そうしてまでなまえには護りたいものがあった。リクオ様に3代目を継いでもらわねば。自分達妖怪の存在を認めてもらわねば。
彼は人間だと言った。妖怪などではないと言った。妖怪なんか、嫌いだと言った。あの時、幼心に深くなまえは傷付いた。それまで兄弟のように仲良く遊んでいたのに、何処か壁が出来たような感じがした。幸い2人の関係が変わることはなかったが、蟠りは今日まで取れることはなかった。

「死ねぇぇいこのうつけが−!いつの間にそんな軟弱になりおった−!!」

「!!」

鴆の怒鳴り声が聞こえる。やはり予想通りと言うか、うん。溜め息を吐いたなまえは立ち上がる。

「やっぱ行ってくる」

「お〜よろしく言っといて〜」

「直接言え馬鹿者」

「おまっ!なんか最近俺に冷たくね!?」

「トサカ丸、お前が馬鹿だからではないか?少しは兄貴を見習え馬鹿」

「ささ美まで…」

そんなトサカ丸を一瞥したなまえはガラリと襖を開け、急いでリクオと鴆の元へと向かった。しかし怒った鴆は既に帰った後、そこには鴆の毒羽根を揺らすリクオの姿しかなかった。

「あ、なまえ…」

「リクオ様…」

顔を見合わせた2人ははぁ、と溜め息を吐く。床に散らばった毒羽根をその毒の効かない身体で広い集めたなまえは、それを静かに炎で燃やしてやった。誰かが毒に犯されたら大変である。

「鴆様の前であんなこと言うから」

「だって…僕には無理だよ、3代目なんて」

「…………」

その言葉になまえはきゅっと唇を噛み締める。

「僕、じ−ちゃんの所に行ってくる」

「……行ってらっしゃい」

去り行くリクオの後ろ姿をじっと見つめた。彼は人間で、妖怪で。3代目を継いで欲しいと願ってしまうのは、私のエゴイズムなんだろうか。
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