「かえる−っ!」
「ちょ、おい、なまえっ!」
「かえるったらかえる−!!」
今にも大空へと飛び立ちそうななまえをどうにか捕まえた黒羽丸はホッと息を吐いた。先程から何故か実家に帰ると言い出したのだ。そこからが大変だった。何としてでも帰ろうとする彼女を止めるのに黒羽丸がどれだけの労力を使ったのか、それは量りしれない。
「だいたい何で帰りたいんだ?」
「おか−さまに会いたいの!」
「正月には会えるぞ」
「それじゃダメ!今日じゃなきゃダメなの!!」
顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうななまえを見ていると、罪悪感に苛(さいな)まれる。とりあえず親父に相談するか、そう考えた黒羽丸が腰を上げたのと同時に二人がいる部屋の襖が開いた。
「あっ、黒羽丸君!ちょうど良かった」
「若菜様、どうなされたのですか?」
しずしずと部屋に入ってきたのは若菜だった。彼女は黒羽丸の前まで来るとゆっくりとその場に腰を下ろす。そして…
「このと−り!私からも頼むわ、黒羽丸君。なまえちゃんを帰らしてやって!」
「わ、若菜様!?お止めください!!」
「黒羽丸君が良いって言うまで止めないわ!」
掌を合わせ、彼に頼み込んだのである。焦った黒羽丸は急いで若菜に顔を上げさせようとするが、中々彼女は従ってくれない。とうとう根負けした黒羽丸が分かりました、と呟くとそれをきっかけに若菜は勢い良く下げていた顔を上げた。
「ありがとう、黒羽丸君。やったね、なまえちゃん!」
「若菜さま−!!」
嬉しそうに若菜に飛び付くなまえを横目で見ながら、黒羽丸は父親をどう説得するか頭を悩ませたのだった。
*
*
*
「ええぃ…何でワシまで…」
数刻後。なまえは実家である高尾山に向かって飛んでいた。彼女の周りには4羽の鴉天狗が、彼女と同じように高尾山に向かって飛んでいる。その4羽とは未だにぶつくさと文句を言う鴉天狗と、それを呆れた様子で見つめるささ美、何故か鴉と競争を始めたトサカ丸、心配そうになまえを見つめる黒羽丸である。あれから鴉天狗を説得しに行った黒羽丸だったが、如何せん頭がカチンコチンの鴉天狗を説得するのには骨が折れた。なまえに悪い、と思いつつ半ば諦めかけたのだ。では何故今高尾山に向かっているのか。それには奴良組総大将が関係している。突然現れた彼は自分が困っているのを見るなり、自分に味方をしてくれたのだ。何だかんだと理由をつけ、最終的に里帰りをするように命令されてしまった。まあ、親父もお目付け役として譲れないことがあるらしく、期間はたったの1日であったが。そんなこんなで一家そろって本家を後にした鴉天狗一族は、もう少しで濡鴉の待つ高尾山に着くところだった。
「母さん、驚くだろ−な…」
「正月以外に実家に帰るって何年ぶりだ?」
そんな会話をしながら飛んでいると、気付けば目的地に着いていた。少しだけ緊張しながら黒羽丸はその扉を開ける。
「母さん、帰ったぞ−…」
そろり、そろり。そんな効果音が適しているのではないかと思うくらい静かに4羽の鴉天狗は部屋の中へと入っていく。すると突然、部屋の中から飛び出してきた誰かが鴉天狗に飛びついた。
「まぁ、貴方。嬉しいわ、私を心配して帰ってきて下さったの?今日は正月ではないのに」
嬉しそうに頬を紅く染める濡鴉に子供達は真実を告げることが出来ず、彼らの父親が「あぁ…」と返事をするのを黙って見ていることしか出来なかった。そのまま夫婦水入らずの時間が始まりそうだったのだが、この中で一番最年少のなまえが濡鴉を呼んだことによりそれは回避されることとなった。
「おかあさまー!」
「あらなまえ!少し背が伸びたんじゃないかしら?」
「うん!あのね、私ね、リクオ様よりも背がおおきいんだよ!」
「あら〜なまえは頼もしいわねぇ〜お母様もお父様ではなくなまえに護って貰おうかしら?」
「まかせてーっ!」
楽しそうに騒ぐなまえを見た黒羽丸は、無理をしてでも帰ってきて良かったかもしれない、と思い始めていた。いくら兄貴分と言っても、彼女の母親になれた訳ではない。やはり、子を育てたことのある母にしか分からないこともあるのだろう。その証拠になまえがどんなに酷く泣いていても、濡鴉は難なく泣き止ませることが出来る。恥ずかしながら自分には出来ないことだった。
「あのね、あのね」
「なあに?」
濡鴉に飛び付いたなまえはごそごそと自分の懐を探る。そこから引っ張り出したのは、一枚の画用紙だった。
「あのね、若菜さまにね、今日は母の日だっておしえてもらったの!母の日にはにがおえを書いて渡すんだって−!だからなまえ、書いてきた!」
「まあ、これを私に?」
「うん、おか−さまにプレゼント!」
満面の笑顔で広げた画用紙には、確かに濡鴉が書いてあった。これが以外と特徴が捉えられていて、素晴らしい絵に仕上がっている。
「嬉しいわ〜あの子達はこんなこと、してくれなくなっちゃったから…」
そう言った濡鴉が半目で三羽鴉を見ると、3人ともなんとも決まりが悪そうに目線を泳がせる。そんな子供達の姿を見た濡鴉が相変わらず半目で小さい頃は可愛かったのに、とぼやくと、なまえはその言葉に興味を持ったようで黒羽丸の小さい頃がしりたい!と必死に彼女にせがんでいた。
「俺の小さい頃なんか聞いたって楽しくないぞ!」
「いや!ききたい!」
「黒羽丸は3人の中でもそれはそれは聞き分けが良くてね〜」
「だぁぁあ母さんもやめろ!!」
嬉しそうに自らの幼少期をなまえに話していく濡鴉を、黒羽丸は必死に止めようとする。しかし何故か濡鴉は自ら口を閉じた。その姿は何かに気付いたように目を見開いていて、まさか、と三羽鴉は冷や汗を流す。
「なまえ」
「なあに?」
「後でまたお話してあげるから、今はお兄ちゃん達と向こうに行ってなさい?」
「?わかった!」
そのまま流れ作業のようになまえを黒羽丸に抱かせた濡鴉は、三羽鴉を部屋から追い出す。最後に部屋を出たトサカ丸によると、母の顔は般若顔負けの顔つきだったそうな。
「おかあさま、どうしたんだろ−ね?」
「あぁ、どうしたんだろうな…」
「結局今日帰ってきたのはなまえが帰りたいって言ったからなのね!酷いわ!私の味方はあの子だけよ!!」
「だから違うんじ、」
「どこが違うのよこの極道鴉−っ!言ってごらんなさい!さぁ!!」
「ぎゃぁあああ!!」
「なんかバンバンっていうおとが聞こえない?」
「「「き、気のせいだろ(う)…」」」
「やっぱりきこえるよ!」
「あ、あれだ、誰かが布団を干しているのかもしれないな」
「そっかぁ」
(((ホッ………)))
:)リクエストありがとうございました!
遅くなってしまったせいでお話が季節外れになってしまい、誠に申し訳ありません。
私的に書きたい流れだったので変更せず、そのままアップさせていただきました。本当にすみませんでした(>_<)
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