「だ、だれ…?」

「…………」

よく晴れた日。今日は幹部会があるようで、朝から奴良組は慌ただしかった。こんな時に限ってリクオは朝から幼稚園というところへ行ってしまっていて、遊び相手がいなくなってしまったなまえは唇を尖らし庭を駆け回っていたのだ。ちなみに彼女の兄貴分はというと、パトロール中である。

「ふ、ふしんしゃ?」

「不審者じゃねえ!」

「ふしんしゃだ−!!」

「だから不審者じゃねぇっつ−の!!」

なまえにぶつかった不審者こと、猩影は顔を真っ赤にさせて怒鳴り付ける。大猿の妖怪狒々の息子である猩影は彼女と近しい年齢とは言え、身体はとても大きかった。それに加え怒鳴り付けられた恐怖からか(本家には彼女を怒鳴り付ける者など滅多にいない)、彼女の目の端には涙が浮かび始めていた。

「ふ……、ふ…っ!」

「あ?え?おまっ…泣いてんのか?」

「ふ、ふぇっ……ふ!」

「ちょ、泣くなよお願いだから」

「ふしんしゃぁぁああ!!うわあああん!!」

「だから不審者じゃね−!!」

顔を真っ赤にしてぽろぽろと涙を零しながら叫ぶなまえをどうにか宥めようと猩影は四苦八苦する。けれども彼女は一向に泣き止まず、その内騒ぎを聞き付けた妖怪達が集まり始めてしまった。

「えっ…なまえが泣いてる」

「おいこら納豆!こいつ泣き止ませてくれよ!」

「猩影殿…貴方様が泣かせたので?」

「ち、違えよ!こいつが勝手に泣き出したんだよ!」

冗談じゃ無い。自分のせいにされては堪らない。猩影は顔を真っ赤にさせて反論するが、既に小妖怪達の間では猩影が泣かせたことになっている。その様子に大袈裟に舌打ちをした猩影だが、先ずは事の原因であるこいつを泣き止ませなければどうにもならない、と考え再度なまえを見下ろした。

「お前もうそろそろ泣き止めよ」

「ふぇぇえっ…」

「ふぇぇえっ…じゃねぇ!泣くな!」

「うわぁぁああん!!」

泣く子に泣くなとしかりつけるのは逆効果。猩影の行為はなまえの涙を更に助長させただけで、彼女が泣き止むことはなかった。状況は更に悪くなり、猩影は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「あ−あ…猩影殿…御愁傷様です」

「はあ?」

「いや、もうそろそろアイツが帰って来ると…あ、来た」

「はあ?アイツ?」

「なまえっっ!!」

猩影の言葉はそこで遮られた。凄い勢いでこちらにやって来た人物に気が付いたからである。その人物とは言わずもがな黒羽丸で、泣いているなまえを発見した彼は彼女を抱き上げ優しくあやす。

「どうした?何があったんだ?どこか痛いのか?」

「ひっく…あのね、ふしんしゃがね、」

「…不審者?」

「だから不審者じゃね−つ−の!」

相変わらず自分のことを不審者というなまえに本当にそう思われては堪らないと考えた猩影が思わず口を挟むと、黒羽丸と初めて目があった。お互いに初対面だったため、怪訝な顔をしながらも軽く自己紹介をする。

「関東大猿会2代目の、猩影」

「奴良組諜報役の黒羽丸と申します。貴方様が狒々殿のご子息でしたか」

なまえが失礼を、と自分に向かって軽く頭を下げた黒羽丸に猩影はホッと息を吐く。とりあえず話が通じる人(黒羽丸)を見つけたと思ったのだ。しかし彼のその考えは間違っていたと思い知らされることになる。

「しかしですね、猩影殿」

「…何だ?」

「なまえが貴方様を不審者と表したことに関しては本当に申し訳なく思っております。しかしいくら何でもこの子を泣かせる必要はおありでしたか?」

「………」

黒羽丸の力説は止まらない。

「納豆達の話によればこの子を怒鳴り付けたとか…」

「………」

彼のお説教を聞きながら、猩影は悶々と考えていた。確かに怒鳴る必要は無かった、と自分でも思っている。ちらりと目線を上げると泣き付かれたのか黒羽丸に抱かれた彼女は小さくぐずっていた。その目の回りは真っ赤になっていて、猩影は後ろめたくなる。

「……悪かった」

「「?」」

「だから、悪かった!」

そう言った猩影はプイとそっぽを向いてしまった。しかしその頬は赤く染まっている。思わぬ事態にぐずることも忘れ一瞬ポカンとしたなまえだったが、次の瞬間には笑顔が戻った。

「…ううん、なまえもふしんしゃって言ってごめんね?」

そう言ったなまえは身体をよじり黒羽丸の腕から降りて猩影に近付いた。そんななまえを猩影は怪訝そうに見ている。

「わたし、なまえ!」

「……猩影」

「しょ−え−、ね!」

こいつ、よく見ると可愛い。猩影がそう思ったのは彼だけの秘密である。しかし彼の頬は未だに赤いままだった。そんなことは露知らず、新しい遊び相手を見付けたなまえは猩影の腕を掴み遊ぼ!、と再び笑った。彼の頬は更に赤く染まる。

「なまえ!」

「?」

「俺が遊び相手になってやる、さあ行くぞ」

「!」

「?だって今日はかんぶかいがあるんでしょ?い−の?」

「問題ない」

子供達の微笑ましい姿を見守っていた黒羽丸だったが、猩影のその姿を見て態度を一変。急いでなまえを抱き上げその場を後にする。その際、猩影からなるべく彼女を隠すことも忘れなかった。



「猩影、帰るぞ?」

「あんの鴉め…」

「鴉?鴉天狗のことかぁ?」

「黒羽丸だって」

「ああ〜、もしかして黒羽丸の妹分と遊んだのかぁ?」

「親父、知ってんのか?」

キャハハ、と笑った狒々は続ける。

「あの子を奪うのは大変だぞ!なんたって黒羽丸が溺愛してるからなぁ!」

「………」

「なんだ、マジで惚れたのか?」

「…………」

「父は応援するぞ、息子よ」

「………さんきゅ」





「黒羽丸、猩影は次いつくるのかな?」

「次の幹部会はまだまだ先だからしばらくは来ないぞ」

「え−っ!なまえ猩影と遊びたい!」

(猩影殿と会わせないようにしなければ…)

:)リクエストありがとうございました!

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