彼の存在は輝いて見えた。びろうどの宇宙が生み出した数多もの生命のうちのひとつ。たったひとつ、ゆるやかな生をたどる。彼の黒々とした髪は陽の光に照らされれば艶やかに光を透かし、青白い月の光に照らされれば、その輝きを増した。瞳は深い地の、いのちの色。うつくしく、人が良さそうで柔和な彼は、さまざまな人に頼られるのだという。その筆頭がタウニーだった。彼女は歴は浅いもののわたしの友人で、彼の友人兼恩人でもあるらしい。なんでも宿を手配したとか。
「人助けってつかれない?」
「全然」
 わたしが訊ねると、いくつかボールを手元に確認して、彼は答えた。
「そうなんだ、すごいね。わたしだったら色んな人に声かけられてっていうのも、それだけでちょっと……」
「人見知り?」
 彼がすこし首を傾げて微笑む。それだけでわたしは頬が焼け焦げそうになって、俯きぎみに頷いた。
「それなのに俺のこと手伝ってくれてありがとう」
 ポケモン図鑑を埋めているのだと聞いたのだ。わたしもポケモンを捕獲してきて育てるのが趣味だったから、手伝えると声をかけた。譲るだけでなく、不思議と手元を離れると進化をするポケモンたちもいるのだ。
「ううん、でも、わたしじゃなくてもキョウヤくんならほかにも手伝ってくれるひといるよね」
 それこそタウニーだとか。こう質問して、わたしはどう返ってくることを望んだのだろう。なんだか自分が浅ましくて嫌になってくる。眩い彼の前では醜いところまで照らされるようで、すこし苦しい。
「なまえのロズレイドは」
「うん?」
「きれいに育ってるから」
 それが理由?訊くと、彼は当然だと言わんばかりに頷いた。わたしはよく理解できず、頭がこんがらがる。健康なポケモンがほしいということ?ロズレイドを譲ってほしいの?困惑が顔にでているのか、彼はすこし可笑しそうにして、柔らかく口角をあげる。
「きみと話したかった。ロズレイドがきれいで、どういうふうに育てているのか訊きたかったし」
 いままでも何度かポケモン図鑑のお手伝いのために顔を合わせてきたけれど、思い返せば確かに彼からは育てかただとか、なにを食べさせているのかだとか、そういう質問が多かったように思う。わたしはいつも彼に見惚れてしまって、なんだかいつも上の空になってしまうけれど。
「そっかあ」
「うん」
 なにかいい情報はあった?恐る恐る訊くと、彼は間髪をいれずに頷いた。わたしはそっと胸を撫でおろす。
「よかった」
「ポケモンたちも楽しそうで、見ていてうれしくなるんだ。なまえのポケモンたちも俺も、なまえのことが好きだよ」
「本当?うれしいなあ……」
 あれ?
 思考が一時停止する。キョウヤくんを見やると、穏やかな眼差しでこちらを見ていた。あまりにいつもと変わらない表情なので、わたしの聞き間違いという可能性がある。それでも身体中が熱くなり、発汗してくるのがわかる。目の前の光にじりじりと焼かれて、まるで調理されているみたいだ。赤くなっているのをできるかぎり見られたくなくて両手で顔を覆うと「かわいいね」と声が降ってくる。自然体なのか確信犯なのかわからない。嬉しさや羞恥心を超え、ただただ怯えるようにその場にしゃがみこんだ。きらきらとうつくしいキョウヤくん。この世界に生まれ落ちて、健やかな命を繋いできたキョウヤくん。ただポケモン図鑑のお手伝いができるだけで幸せだった。
「理由がもうひとつある。なまえが俺のことを好きなの、知ってたから」
 そっと肩に置かれた手の温もりが恐ろしく、ひええ、と声をもらしてしまう。今まで知っていたキョウヤくんじゃない、知らない人かもしれない。顔を覆っていた手を外すと、相変わらず穏やかな表情でこちらを見つめる姿があった。うつくしい地の色が、そのいのちが、まっすぐにわたしを射抜いている。