「あれ、夜半さん」
 ちょいちょいと自らの耳朶を指してみせた少女わ目を丸くして驚いているようじゃったけども、なんのことなんだかさっぱりわからずに首を傾げると、またかわいこぶってると言って眉を顰めた。かわいこぶってるんじゃなくて実際にkawaiiんじゃけども、今それわ置いておくとして、ボクも自分の耳朶に触れてみる。模倣から得られる情報わ多い。つるりとしていて、外皮もヒトのそれとなんら遜色ない、いたって"普通"の耳朶にボクわまた首を捻る。
「ンン?」
「ピアス! してないんですね」
 痺れを切らしたように少女わ言う。テーブルを拭きながら。
「あー、今日の衣装と合わなかったから外してそのままで来ちゃったんだった」
「衣装?」
 不思議そうに今度は彼女が首を傾げる。して、この少女わなんでも顔に出て面白い。接触しているとワキワキする。それから心地良い神経伝達物質が放出されてチカチカと光って、そんなわけないんじゃけども、例えるならば血液がぶくぶくと湧き立つような。
「ボクわ泣く子も黙り歌って踊れるHAMA18区長じゃから、衣装チェンジも頻繁に……」
「わー、ピアス穴あいてる」
 至近距離まで寄ってきてボクの耳を凝視する。羨望の眼差し。
「お前も開けたいんじゃろ」
 わっかりやすく表情を変えた少女わ、ボクに期待を寄せるようにじっとその瞳孔を広げた。僅かに。
「開けてやろか?」
 パチンと一発じゃけども。そう言うと、少女はぶんぶんと大袈裟に首を振る。収縮。
「校則違反だもん」
「そんなん破っても問題なかろ」
「あるよ」
「ヤじゃー!開けたーい」
「しかたないじゃないですか、ダメなもんはダメなんですから」
 ボクを制した少女わちょっと残念そうに、カウンタークロス片手に頬を膨らませる。それが俗に言う愛らしさに当てはまることをボクわ理解していて、しかし胸の辺りがあたたかくなるメカニズムわ未だ解明できていない。ポクポク。
「じゃあ、学校卒業したら」
 本格的に掃除を始めるつもりなのか、モップを引っ張り出してきた彼女わ気恥ずかしそうに言う。
「したらー?」
「そのときは夜半さんにピアス穴開けてもらおうかな」
 じつに不思議なんじゃけども、ただ耳に穴開けるだけの約束に、またポクポクする。アドレナリン分泌の兆候を示していた。
「ン、承ってやらんこともないぞ」
「本当?」
「したらば早速制作に取り掛かるか」
「何を、怖いよ、市販のでいいんだよ」
 焦る少女を置いて、店を閉める準備をはじめる。もう閉店なんですかと驚く少女の無垢な耳朶が照明に照らされて、今晩わひどく美味そうに見える。