ちらついた雪に恨めしい気持ちを抱き睨みつけていると、隣に腰を下ろして彼女わ控えめに笑った。
「寒い?」
「ぶるぶる、いまにも凍え死にそう」
「たいへん。こっち向いて」
実際のところわ大して危機感を抱いてわいないだろうけれども、そーゆうと彼女わボクの両頬を包むように手を当てた。熱い。
「どう?」
「ン」
ボクもやり返してやると、彼女は冷たそうに身体を震わせる。おかしくて、楽しくて、もしかしたらこれが幸福なのかも、なんてぎぃみたいなことを思ってみたりなんかした。
次にボクの幸福が崩れ去る(これもまた、ぎぃのように)のわ翌日になってのことだった。家に帰る最中に彼女が別の人間と歩いているのを目撃した。映画やドラマであれば浮気現場の発覚シーンかなんかになって盛り上がるところじゃけども、心の広ーいボクわそんなこと一ミリも疑わずに声をかけた。かけようとした。心の広ーいボクわ、彼女がその人間の両頬を包むのを見たとき、広ーいはずじゃけども、確かな嫉妬をこの身に刻み込んだのだ。嫌でもその光景から目が離せなかった。どこか夢の中の出来事のようで、ボクにわ全く無縁なものだと高を括っていた。
またその翌日、ボクわ彼女を問い詰めた。どう言えばいいか言葉に詰まる。今までこんなことわなかったのに。華奢な肩を掴む。身体も心も別々で、ボクらわ温度が異なった。皮膚を伝って、巡るなにかを暴く。伝わる。行き来した熱に巨大に膨らんだ強い感情が混じる。境界線がある。どうすれば相互理解に至るのか、今なら分かるのに。
「食べてしまおかと、以前なら」
「ん?」
「それがスタンダードだったからなあ」
首を傾げてボクを見る彼女わ、何も分かってない、バカみたいにのーてんきな顔してる。するとこころのざわつきが一層増す。ボクの嫉妬わ共有できていない。それを自覚するや否や、胸の内が焼かれるように痛い。痛み、苦しみ、それから、何故だかほんの少しの悦び。それが一体何を指し示すのか解明できずにもどかしい。
「伝わらないで苦しーとき、どうしたらいい?」
指先を摩る。ぎぃの指先わ水仕事でカサカサのパサパサじゃけど、彼女のわそんなことない。そして同じ熱──いや、ぎぃのが少し低いか──を、ボクの冷めた指先に宿す。灯りを照らすみたいにポクポクが広がる。
「ええ。話し合う、とか」
「議論するにわ知能レベルが合わない」
「わたしバカにされてる? えっと、じゃあ……議論とかそんな難しいことじゃなくて、伝えたいことは根気よく口にしたほうがいいってだけかも」
「根気よく……」
根気よく、何を伝えれば。このぴゅうぴゅうわ何だ。さびしいとわまた違うこころの化学反応わボクを、こう……なんとゆーか……、……。
「子タろくん?」
指先だけの接触でわ足りない気がして、ギュッとお手手繋ぐとぴゅうぴゅうわ若干和らいだ。
「お前わほかの人間とボクに優劣をつけない。だからイライラする」
目をまんまるくした彼女わ、イライラ‥‥と復唱すると心外だと言いたげに眉を顰めた。そーゆー人間だと理解していた。だからこそボクにとって彼女がぎぃに次ぐ一番のオキニ……矛盾している気もするがこの際気にせず、とにかく分け隔てなくだの世界平和だの頭お花畑みたいな思考の持ち主にわ無い発想に違いない。だからこんなにヤキヤキモキモキさせられる。
「お前わ、ほかの人間とボクに優劣をつけない。だから、イライラする」
「何で二回も言うの」
「お前がゆった。根気よく伝えろと」
彼女わ思案した。そのふっくらと血色のいい頬に別の人間の手が触れるのを想像すると、ぞっとするほどの感情が内側に渦巻くのを感じる。どす黒くて粘着質な、確かなボクの感情。
「……子タろくんは不安だった?」
「不安」
いつかに辞書を読んだことがある。不安とわ気がかりで落ち着かないこと、心配なこと。また、そのさまをいう。なるほど、噛み砕くと腑に落ちた。
「ボクの灯りをともしてくれなくなるんじゃないか、いつかこの指先をすり抜けてくんじゃないか」 他者を食べて一体化したあとの空虚な感覚を今になって鮮明に感じる。塞がっていた視界がクリアになってゆく。
「大丈夫」
握っていた手を強く握り直して、彼女わ力強く言う。
「根拠もなしに」
「あるよ。不安になったら、また言って。できるだけそうさせないようにしたいけど……」
「擦り合わせ?」
「そうそう」
頬に触れる。熱い。火傷するんじゃないかと思うぐらい、熱い。湧き上がる何か温かいお湯みたいな気持ち、彼女の微笑み、外ではまた雪が降り出した。
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