宿儺視点 彼のみぞ知る
(中略)
「それで、四年生の女の子が居なくなっちゃったって……かわいそう」
赤いランドセルを足元の岩盤に置いて、その話題を出した娘に宿儺は興味を示した。何せその居なくなったという少女に心当たりがあったからだ。つい先日、己に備えられた供物。生贄として捧げられたその少女のことを言っているのだろうと粗方予想がついた。
目の前の娘は、自分と同じくらいの歳の少女が犠牲となっていることを知らないようだ。恐らく彼女が口を滑らせる危険を考慮してしているのだろう。純粋な子供ほど恐ろしいものはないと、大人たちが結託して口を噤んでいる。宿儺にとってそれはなかなかに愉快であった。
「大丈夫なのかな、見つかるのかなって話をしてたら、近所のおじいさんが一人いなくなったから暫くは大丈夫だよ≠チて。そんなのおかしい。大人はみんな、その子のことを可哀想だって見つけ出してあげようとするより、自分が良ければその子がどうなってもいいって顔をしてる」
小さく「他人事じゃないはずなのに」と呟き、悲しそうに顔を歪めるこの娘に、その元凶が周りの大人たちなのだと吹き込んでやるのも愉しそうだ。
そうほくそ笑んだ宿儺のことなど露知らず、彼女は自ら名を明かしてくれたあの時以来、これまで一度として答えてくれたことのない神に懲りることなく語りかける。
「どうすればいいのかな……トコヌシさまならどうしますか?」
彼女は助言を求めるが、もちろん返答はない。
宿儺はこの場で彼女を絶望に突き落とすのはやめた。
この娘に言葉を与えるのは今ではない……そう、この娘に相応しい地獄はそれではない、と直感が声を上げた。
急いては事を仕損じる。この状況を活かすべく、一歩も引き返せないところまで誘い込まなくては勿体ない。
いつまでそうしていられるか見ものだな、と宿儺は彼女の赤いランドセルを見送るのだった。
あれから歳を重ね、成長した彼女は宿儺の予想を見事に裏切った。そう、彼女は成長したところで中身がまるで変わらなかったのである。
自分が異物だということに気づかず、そして周りにもそれを気づかせず、ただただ呼吸を繰り返す植物のように日々を生きていた。とことん鈍いのか、それともとんでもなく器用なのか。それすら明らかではない。
己に頓着しないのか、他人のことばかり気にかけ、だからといってそれを神頼みで解決しようとするわけでもなく、ただ自分に問うように「どうすればいいんでしょうね」と独り言を零すだけ。
この娘が自分のことを願うのはどんな時なのだろうか。どうにかしてこの娘の欲を露わにしたい。
それは、これまでただ傍観を愉しんでいただけの宿儺から、気まぐれではなく確実に彼女の行動によって引きずり出された感情だった。
「たす、けて……」
その搾り出された必死な言葉に、宿儺が薄ら笑ったことなど彼女は知る由もない。
「助けて……! 宿儺さま! 両面宿儺さま……‼」
幼い頃に教えてもらった神の名に寄り縋るように叫ぶ彼女は、救済を願った。
ついに、この時が来た。あれほどまでに欲というものに頓着がなかった娘が、ついに欲を出すこの時を、宿儺はずっと待ち望んでいたのだ。
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