明日、どうする?


 (中略)

「────ってなわけよ」
「いや、話長……」

 白目を剥きかけた彼女は、長い長いため息を吐き出した。
 まさか、五条が自分のことを好きになったきっかけを語り始めて、数時間も経過するとは思わなかった。やはり、缶酎ハイ半分と言えど、酒を飲ませたのは悪手だったか。
 そう猛省する彼女は、壁にかかっている時計を見る。時刻は午前一時半。流石に眠くなってくる時間帯だ。
 高専の一室で開催していた飲み会は、五条の長話が始まった頃に面倒ごとに巻き込まれたくない日下部と、仲間内の会話に気を遣った日車が抜けていき、続いて飲むだけ飲んだ家入と、まだ仕事が残っているという伊地知が抜け、最後に五条の彼女だけが残されてた。

「まぁ、投げ飛ばされたのがきっかけで好きになるって変わってるよね」
「ははー、よく言われるー」

 アルコールによって火照った頰に触れ、肘をついた五条は、上機嫌で彼女を覗き込む。

「それで?」
「……それでって?」
「これでも真剣に口説いてるんだけど」
「あー……なるほど?」

 全てを察した彼女はグラスを置き、真っ直ぐに向けられる五条の瞳に向き合った。

「五条くんのことは尊敬してるし、信頼もしてる。でも今さら付き合うとなると、ねぇ……?」
「こんな優良物件、世界のどこを探しても見つからないよ?!」
「だって、恋愛として誰かをずっと好きで居続けてる五条くん、想像つかないんだもん」
「ハァ〜〜〜?」

 何年想い続けてると思ってんの、と五条は侮られた怒りに任せて彼女を小突き回す。

「想像できないからって決めつけるのは良くないと思いまーす」
「まぁ、たしかに、そうかも」
 彼女が流されるまま同意を示すと、ぐらりと視界が揺れた。
「僕がどれだけお前のこと、一途に想ってたか教えてあげる」

 畳の上に押し倒した彼女を上から見下ろす。顔を赤らめるのか、それとも青ざめるのか。五条は組み敷いた彼女の反応をうかがう。

「もう十分分かってるよ」

 予想に反して、ふっと笑った彼女は五条の頭に手を伸ばし、柔らかい髪の毛をわしゃわしゃと撫でた。

「さっきのは昔はそう思ってた≠チてことを言っただけ。悟、勘違いしてるみたいだったから」

 五条は目を白黒させながら、酔いが回った頭をフル回転させた。しかし、答えに辿りつくより前に、彼女が自身の左手を差し出した。

「ほら、見て」

 薬指には、存在を主張するように指輪が光っていた。
 彼女は五条の左手を見つめ、「自分のも」と五条の視線を促す。それに従って見れば、自分の薬指にも同じデザインの指輪がはまっていた。

「昔のこと、話しすぎて忘れちゃった?」
「は〜〜〜! な〜んだ! 僕たち結婚してんじゃん!」

 よかった〜! と馬鹿でかい声で安堵する五条は、何処の馬の骨と結婚したのか問い詰めるところだった、と白状し、彼女の上で脱力した。
 彼女は五条の重みに苦しげな声でうめいたものの、好き勝手にされることを許し、五条の気が済むまで唇を啄まれた。


 続きは新刊にて







2023.12.07 Happy Birthday!








永遠に白線