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「跡部観察記録」(観察者:忍足侑士)

あの日俺は見てしまったんや。
我らが王様、跡部景吾の朗らかな笑顔を。



「なん…っやの、アレ。」

思わず声に出してしまったがいや落ち着け忍足侑士、別に跡部がいつもしかめっ面な訳ではないしそりゃ最近は機嫌がよろしい方ではなかったものの少し朗らかに笑っているだけではないか。
伊達にポーカーフェイス言われとらへんで…しっかりせぇや!と自分を叱咤してみたんだけども続く跡部の優しげな声にまたしてもポーカーフェイスは崩される事となってしまった。

「仕方ねぇな、ったく。」と笑う跡部の表情は1年で数回見れるか見られないかというレベルのもので、これは新聞部とファンクラブ辺りが高く買い取ってくれそうやで…と見当違いな事を考えてしまう。そうでもしないと、感情が追いつかないのだ。(何で電話しとるだけやのにそないにええ表情なん??)

これは興味深いと思った俺は、暫く跡部を観察してみる事にした。



*****


結局数週間に渡り観察を続けたところわかった事は、跡部のご機嫌のお電話タイムは昼休みという事と、お嬢さんの名前と結構な頻度で電話しているという事だった。俺とて暇ではないので毎日毎日跡部をつけていた訳ではないが、たまに屋上に行くとたまに跡部が電話していて、幸せそうすぎて話しかけるのを躊躇うパターンが発生していた。(ちなみに毎回話しかけられないまま休み時間終わってまうパターンやった)

本人に聞いた事はないが、聞いてみたらどういう反応をとるのだろう。
最近になってその興味は膨らみに膨らんでしまい、とうとう部活が終わって部日誌をまとめる跡部にぽそっと問いかけてしまった。


「なあ、跡部。」
「アーン?何だ忍足、日誌の邪魔すんじゃねぇぞ。」
「邪魔はせぇへんけど聞きたい事があってな。…自分、最近誰と電話しとるん?」

途端にピリッとした空気になって跡部と目が合った。少し睨み合う形になった後、彼はフンッと笑い飛ばした。

「何を勘繰ってやがるか知らねーが、別にそういうんじゃねぇし、ちょっとした知り合いと電話してるだけだぜ。」
「…ふぅん、言うつもりはないって事やな。」
「ま、気になるなら探してみるこったな。気が済んだなら早く帰れ。」
「(ヒントはくれへんけど探すなとも言わんっちゅう事かいな)…邪魔してもうて堪忍な、跡部。」



これは何が何でも探さねばと息巻いたその日の帰り道、街を歩いていると突然跡部とすれ違ったような感覚がしてふと振り向いた。が、しかしそこには髪の長い女の子しかいなくて首を傾げる。
そこで、はた、と気が付いた。

(あのお嬢ちゃん……跡部と同じ香りがしたんや…!)

確か部室のシャワールームに置いてある跡部のバカ高いシャンプーと同じ香りだ。(同じシャンプー使うてるて何なん…?跡部と同じくらいの金持ちなんか…?)
もしくは、彼女か。だがしかし、女性を雌猫呼ばわりする上に彼女がいる素振りもないし、あの跡部だ。一瞬浮かんだ考えを頭を振って消し去った。

ならば、消去法で残るとするならその可能性は、

「…案外、例のお嬢ちゃんだったりしてな。」

まさかな…と思って二度目となる振り向きを行ってみたが、どこかの小道に入っていったのか彼女はもう見当たらなかった。



溢れた独り言は夕暮れに消える。
忍足侑士は酷く楽しそうにニヤリと笑って歩き出した。

(暫くは、要観察、やな)




*****

拍手ありがとうございました!
どうしても気になっちゃう忍足君の巻でした(笑)
次は次期部長の観察記録です。





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