幸村精市の場合




どうしてそうなったのか、最初がもはや思い出せない。


もともと美衣は俺たちの大切なマネージャーで、中学生の時から立海大附属男子テニス部を支えてくれていた。いつも頑張っていることや誰よりも俺たちを大事に思ってくれていることは十分に知っていた。

知っていた、はずだったのに。

高校2年生になり、ある日突然転校してきた彼女は姫宮姫子と名乗った。この世のかわいらしさをすべて詰め込んだような顔立ち、艶めくピンクのロングヘア、甘い匂い、高い甘い響きの声。今ならおかしいと思う。大体何なんだピンクの髪って、校則違反だろ。
でもなぜか俺は彼女に急速に惹かれていった。おそらく一目惚れだったんだと思う。

そしてそれはなぜか、テニス部のレギュラー全員に及んだのだった。

そこからは、正直な話、よく思い出せない。
たしか姫宮が突然泣き出したのだ。「古田さんにいじめられている」と。
姫宮が頭から派手にドリンクを被っていた日があった。腕に痣をつくった日もあった。
様々な問題が降りかかるたび、彼女は全て美衣のせいだと言った。
姫宮に心底惚れ込んでいた俺たちは、全て信じ込み、美衣がいじめているのだと思った。

――姫子を美衣…いや、古田から守ろう

誰が言い出したかは覚えていない。
自然とテニス部レギュラー全員が姫宮を守るため、美衣を問い詰め、糾弾し、時には暴言や暴力が出る日もあった。

美衣は何度も「私はやってない」と叫んでいたのに。

どうして、やめられなかったのだろう。


そうこうしているうちに、美衣は全校生徒からいじめられるようになり、
俺たちの目の前で飛び降りたのが、つい先日の出来事。

美衣が飛び降りた瞬間、唐突に目が覚めたような気がした。
それと同時になぜ?という疑問と後悔でいっぱいになった。
テニス部レギュラー全員が同じ気持ちだったようで、それからはすぐ姫宮を問い詰め追い出した。


諸悪の根源はもういない。

あとは美衣が目を覚まし、俺たちが謝ればいつものあの頃のような楽しい日々に戻るはずだった。


なのに、どうして。


「あなたたち、誰ですか?」


どうして、そんなことを言うんだい?
大切な僕たちを忘れるわけがないだろう。

何とか思い出してもらおうと話しかけたのに、病室を追い出されてしまった。
いや、でも目は覚ましたのだ。これからゆっくり俺たちの事を思い出してもらえばいい。そう思ってみんなに話しかけると、みんな力強く頷いてくれた。

「みんなで頑張って美衣の記憶を取り戻そう。」


そう決意した俺たちはまだ知らない。

美衣が記憶を取り戻したいだなんて、決して思ってなどいなかったことを。






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