かくれんぼの背中


北添尋は身長が高い。

それ故に大きなマスコットと化していることもあるが、本人は気にしていないようで、体格など気にせず影浦隊の隊員と仲良く日々を過ごしているようだ。

そんな私は近所のお兄さんだったゾエさんの背中を追いかけてボーダーに入隊するという、とても不純な理由で今ここにいるのだけれど、このことをゾエさんはきっと知らないだろう。ゾエさんがボーダーに入隊してからいつも遊んでもらっていたお兄さんがいなくなる寂しさに耐えかねたのだから仕方ない。

ゾエさんは優しいから入隊報告をした時こそ驚いていたが、直ぐに本部を案内してくれて、更にはまだC級隊員だった私の交友関係も広めてくれた。

「由紀はどこだー!」

そして無事にB級へと昇格し、普段より胸を張って本部を歩けるようになった私は大好きなゾエさんの背中に張り付いて、私を探す光ちゃんをやり過ごした。

「由紀ちゃん、ヒカリちゃんが探してるよ?」
「うん。かくれんぼだもん」
「かくれんぼだったの?」
「うん」
「それは初耳だよ〜」

背中に張り付く私を邪魔と言わず、自動販売機へ向かって歩きだすゾエさんはすごいと思う。

「ゾエさんの背中はいつもあったかいね」
「そう?それは嬉しいなぁ」

嬉しいことなのかな、と思うけれど、それが嬉しいのならいいのかな、と納得してしまうところは私もゾエさんに甘いのかもしれない。

「由紀ちゃんは何飲む?」
「今お財布持ってないけどいいの?」
「いいよ。ゾエさんの奢り」
「やった!うーん、いちごオ・レにする」
「好きだねぇ〜」
「うん。好き」

小銭を自動販売機に入れる音がするので、いつの間にか目的地には着いたようだ。

光ちゃんの声も遠くなったので、スルスルと背中から滑り降りてゾエさんの横に立つと、ゾエさんは「いちごオ・レのいちごと、本物のいちごは違うよね」、と言いながら小さなパックジュースが並んだカラフルな自動販売機の中のいちごオ・レのボタンを押した。

コトンと落ちてきた小さなピンク色のパッケージを私が取ったのを確認して、ゾエさんは隣に置かれているペットボトルが並ぶ自動販売機からお茶のボタンを押し、私は取り出し口からお茶を取って、手渡した。身長の高い人からすると屈む動作は大変だろうという私の考えなのだが、手渡した時に「ありがとう」と顔を綻ばせて喜んでくれたので、間違ってはいないのだろう。

このまままた作戦室へと戻るのかと思っていたけれど、ゾエさんは近くに置いてあるベンチに座ってお茶を飲み始めたので、私も隣に座ってストローを飲み口にプスリと差し込んだ。

流れこむ甘い液体に舌鼓をうちながらペットボトルのいちごオ・レがもっと自動販売機に普及すればいいのにと思う反面、パックの、牛乳多めのいちごオ・レが捨てがたいので、このままでいいかな、なんて思ってしまう。

「いちご味の飲み物ってあまり見かけないよね」

ゾエさんの言葉が頭の上から降ってきた。

確かに、いちご味の飲み物は少ない。このいちごオ・レですら、いちごかと問われれば甘味料の味に近い気すらする。

肯定の意味を込めてストローでいちごオ・レを飲みながら首を縦に振ると「おちょぼ口だねー」なんて言われながら頬をつんつんされてしまった。

そこでやられっぱなしの私ではない。そのままゾエさんのお腹をぷにぷに突付いたら、くすぐったい、と笑い出してしまった。笑わせるつもりはなかったけれどこれはこれで大成功だ。満足。

と、思っていたけれど、満足したのも束の間、ゾエさんの笑い声に気づいた光ちゃんが全力疾走でこちらに向って走って来てしまった。

「ゾエさん匿って!」
「いいけどもう見つかってるよ?」
「おい! ゾエ! 由紀を捕まえろ! 由紀! こんなに遠くはダメだろ!」
「範囲決めなかった光ちゃんのミスだもん。私悪くないもん」
「なんだと!」
「ぎゃ!-光ちゃんが来た! ゾエさん助けて!」
「ええー」

座っていたゾエさんの手を引いて立ち上がらせ、盾にすると光ちゃんは予想通りに回り込んで来た。

「こら! 待て! 逃げるな!」
「待たない! 逃げる!」

ゾエさんの回りをぐるぐるぐるぐる、何周回ったか分からなくなってきた時、ゾエさんが私と光ちゃんの首根っこを掴んだので全員の動きが止まった。

「はい、終わり。ユズルどうしたの?」

ゾエさんの視線の先にはユズルくんが大きな段ボール箱を持っている。

「当真さんにみかん貰った。みんなで食べろってさ」
「そっか、それならみんなで帰ろうか」

ゾエさんの手が離れた光ちゃんはみかんの入った箱を覗き込んでガッツポーズをし、私はまたゾエさんの背中に張り付いた。

「ところでさ、何でかくれんぼしてたの?」
「ああ、作戦室のみかんを全部食べちゃったから、負けた方が買いに行くってルール」
「なるほど」

ユズルくんに感謝である。

For Biwa 20151230
こたつにみかんは必須アイテム。さらに雪見だいふくがあれば最高。
しかし我が家にこたつはない。

びわさんいつもありがとうございます。



かくれんぼの背中