[さいな]めよ花、赦されよ毒

リクエスト:二宮を監禁
※色々注意。捏造過多。男主×二宮。高校二年生の二宮を擬似監禁します。


冬の冷たい空気が肌を刺す、高校二年生の日曜日の朝。

ボーダー本部に向かおうと玄関の扉を開けると、当然のように迎えに来た彼は、昨夜降った雨でできた水溜りに薄く張った氷も溶かすような、あたたかく、柔らかい口調で俺にこう言った。

「匡貴、俺に監禁されてくれない?」

耳を疑うどころか、目を疑った。

本当に目の前の男は俺の年上の幼馴染で、ボーダーの先輩で、恋人の、あの優しい由紀さんなのだろうか。

「明日から5日間。月曜日から金曜日まで、お願い」
「何をするつもりですか」
「基本的な事は何も変わらないよ。5日間俺の家に泊まって、俺の家から学校に行く。ボーダーにも行っていいよ。でもちゃんと俺の家に帰ってきてね」
「それに何の意味があるんですか」
「俺がそうしたいの」

にこりと笑うその笑顔は優しく、いつも通り。出てくる言葉だけが歪で黒く、信じられなかった。

「家も隣だしさ、よく泊まったりしてるし、いいでしょ?」
「はぁ……。泊まるだけなら」
「ありがとう!」

"監禁"という言葉に少々恐怖を感じたが、緩く提示されたその条件に、いつもたまに泊まっているものが延長されるだけではないかと了承した。

家が隣の由紀さんは俺より3歳年上で、とても良き隣人だったのだが、由紀さんの大学進学が決定したその夜に俺の家に押しかけてきて、俺に好きだと告白をした。最初は冗談かと思ったが、アプローチを止めない由紀さんに最終的に惚れたのは俺だ。

両親はそれを聞いてはいなかったが進学の報告はしていたので、うちの息子が受験生になったらよろしくね、と未来の約束まで取り付けていたことはよく覚えている。

それから由紀さんが大学生になって、少し落ち着いた頃に、恋人がするようなことをたくさんした。キスも、その先も、由紀さんに優しく、逃げ道を塞ぐようにリードされて、あれよあれよと言うままに若干屈辱的ではあったが俺が抱かれるかたちになった。

それが嫌ではなかったのだから、俺は心も体も由紀さんのことが好きらしい。

だから由紀さんの家に泊まって、そういう事になったとしても、それはさして重要なことではない。寧ろ自然と言っても過言ではなかった。

「今日の夜、家に迎えに行くね」

そう言ってひらひらと手を振りながら家に入っていくので、ああ、今日は由紀さんは非番なのか、といつも2人で歩く道をひとり寂しく歩いた。

◇◆◇

夜の21時。夕食も風呂も全部済ませて部屋に戻ると、丁度見計らったようなタイミングで『準備できた?迎えに行くね』と携帯電話にメッセージが届いた。

短く『はい』とだけメッセージを送り、荷物をまとめたバッグを持ってリビングへと足を運ぶと母が「由紀くんのご両親にちゃんと挨拶してね。あとこれ、手土産に持って行って」、とみかんが詰め込まれた小さな箱を渡してきた。

何も話していなかったはずなのにどうして、と俺が目を丸くしていると、昼に由紀さんに会って、俺が由紀さんの家に泊まると聞いた、と話した。しかも期間もしっかりと把握しており、どのように説明したのか気になったが、それは来客をしらせるチャイムの音にかき消された。

「あらあら、由紀くん迎えに来てくれたの?」
「こんばんは」
「匡貴をよろしくね。みかん持たせたからご家族で食べて。もっと早く聞いていればもっといいもの持たせたんだけど」
「いえいえ、俺がしたくてしていることなのでお気遣いなく」

俺より先に玄関に出た母は楽しそうに由紀さんと話す。

両親と俺は不仲では無かったが、あまり会話をしない俺よりも、由紀さんの方が仲がよく見えることに対して俺が何も感じないのは、両親に感心がないからなのか、それとも両親が本当に俺より由紀さんの方が気に入っているのか、答えは分からないが、少しだけ考えてみたところで結論はどうでもよかった。

家から出て扉を閉めると辺りはしんと静まり返っていて、やはり冬の寒さだけが異常に鋭く感じられる。

「寒いから早く俺の家に行こう」

手を優しく包むように握られて、50メートル未満の距離を目指して歩き出す。

隣の家なのだから迎えに来なくてもいいのにと思うが、その反面、少しでも長く一緒にいられる事に幸せを感じている俺は、軽く手を握り返した。

家に着くと由紀さんの母親があたたかく俺を迎えてくれたので、手土産を渡すと5日間よろしくね、と笑顔で受け取ってくれた。

どうやら歓迎されているらしい。

由紀さんの部屋は2階に上がってすぐ右のひとり部屋。蒔田家には物心ついた頃から何度も出入りしているため、1階にはリビング、ダイニング、バス、トイレ、生活に必要な設備は全て揃っていて、構造や置いてある物まで全て把握しているが、2階は由紀さんの部屋しか知らない。

そんな俺の気持ちなどつゆ知らず、由紀さんは扉を開けて俺をエスコートする。

いつもの定位置のベッドの上に座ると俺に背中を向けて何かごそごそしていた由紀さんが目の前に跪いた。

「匡貴、足、借りるね」

昔読んだシンデレラの絵本のように左足を優しく掬われ、カシャリと銀の輪が足首にかかる。それを愛でるようにひと撫でした由紀さんは銀の輪に繋がっていた鎖をベッドのフレームに繋ぎとめた。

「慌てないんだね」
「驚きはしていますが、こんなものトリガーで簡単に壊せそうですし、例えボーダー本部の壁ほどの強度があったとしてもトリオン体になって足を切ればいい話です」
「それはそうだけど、大丈夫、危害を加えたりしないから壊さないでね。これ高かったんだよ」

由紀さんが鎖を上に持ち上げると、金属の擦れ合う音がカチャカチャと部屋に響いた。

それからお互いに何を話すこともなく、由紀さんはパソコンに向き合ってレポートを書き始め、俺は持ってきた文庫本をバッグから取り出し、読んでいた。

ふと、部屋の窓から見えた俺の家はもう真っ暗になっていて、時計は23時を少し過ぎた時間を指している。

俺が立ち上がろうとすると、鎖がカチャリと音をたて、それに気づいた由紀さんがこちらに目線を向けた。

「ああ、匡貴はもう寝るの?」
「眠くなってきたのでこのまま寝てしまおうかと」
「そうだね、それなら俺ももう寝ようかな。一緒に寝よう」

ベッドに潜り込んで「おいで」と俺を横に招く。

素直に横に潜り込んで由紀さんの胸に顔を寄せると、由紀さんは至極嬉しそうな顔をして微笑むので、それがむず痒いが、同時に俺のことを心底好きだと伝えてくるこの顔は嫌いじゃない。

「明日も学校あるよね。帰りはいつも通り?車で送っていくよ。一緒に防衛任務に行こう」
「はい。いいですよ」
「ありがとう」

◇◆◇

あれからというものの、特に変わったことはなく、由紀さんが足枷をするのは由紀さんの部屋の中だけで、食事は由紀さんの家族と一緒に食べ、風呂に入り、また由紀さんの部屋に戻り足枷をつけられる。そんな日々だった。

「由紀さん、これに何の意味があるんですか?」
「俺がしたいだけだよ」

質問をしても柔らかな笑みで答えられるだけで、なんの解決にもならないが、特に不自由なことはなく、俺は生活できている。この行為になんの意味があるのか分からないことだけが俺の心の奥底に沈んでいた。

ふと、窓の外から見えた俺の家はまた真っ暗だった。

……真っ暗?

時計を見てもまだ20時で、今日は水曜日。この時間ならば父が帰宅していて2階の書斎の電気がついているはずだ。

急に不安が背筋を伝ってゾワゾワと頭まで上がってくる。

ガチャガチャと激しい音を立てながら窓に向って走り、下を覗き込んで見ても、家全体が真っ暗だった。1階のリビングでは俺と母がいつも見ているニュースを見始めている頃で、玄関に設置されたライトすら光っていない。

そこに人が住んで居なかったかのように静まり返った俺の家はまるで捨てられたおもちゃのようだ。

「由紀さん!」
「なぁに匡貴」
「なぜ俺の家に明かりがついていない!」
「さぁ?」
「とぼけないでください!」

デスクに向っていた由紀さんに詰め寄るとポンポンと頭を軽く叩かれて、「匡貴は何も心配しなくていいんだよ」と微笑まれた。

急いで家に向かおうと扉に向って足を進めると、ガチャリ、と足枷がまた俺の邪魔をする。

「チッ」

無意識に出た俺の舌打ちの音は大きく部屋に響いたが、そんなことを気にすることもなく右手をポケットに手を突っ込みトリガーを取り出そうとしたが、いつも入れている場所にトリガーがない。反対に入れたかと左手を動かした時だった。

「匡貴、ここ」

由紀さんが俺のトリガーを見せびらかせるようにふりふりと振って見せてから机の上に置いて、俺の元に歩いて来る。

「返して欲しい?」
「手元にトリガーが無くてもトリガーを起動させることはできますよ」
「うん、知ってる。でもね、俺は匡貴をここから出したくない」

そう言って俺の口に噛みつくように吸いつき、ベッドに押し倒した。

そのまま右手を俺の首に添えてゆっくり締めあげる。

恐怖と苦しさと、その中の少しの甘さが俺の意識を遠ざけていく。

「ぷはっ、」

由紀さんの口が離れた。俺は一生懸命息を整えようと空気を吸い込むが塞き止められていた気道に大量の空気が入り込んできて、盛大に咳き込んでしまった。

「匡貴、お願い、させて」

俺の返事も待たず、由紀さんは俺の下半身に手を伸ばす。急いで抵抗しようと手を払い退けようとしたがそれよりも早く、由紀さんが俺の弱い所を擦り上げた。

「やめっ、――――、―っ、」
「ごめんね匡貴」

早急な行為が俺の頭の中を甘く溶かしていく。

由紀さんの目にはいつもの優しさはなく、鋭い眼光が俺を見下ろす。こんなにも由紀さんがこわく、それでもかっこいいと思ったのは初めてだった。

◇◆◇

目が覚めるともう朝だった。時刻は5時17分。俺の体は綺麗になっていて、隣で由紀さんがすやすやと眠っている。

それでも足枷は俺の足首を鈍く光らせていたので、そっと移動し、机の上のトリガーを握って起動させる。普段は全く使わないが、セットしておいたスコーピオンでそのまま足首を切って足枷を外し、換装を解いた。

由紀さんを見たが、まだ起きる気配はない。そっと部屋を抜け出し、家を出て、俺の家に帰るとやはり誰も居ないようだった。鍵を開けて中に入ると、家財道具は俺が家を出た時と同じようにそのままだったが、一部配置が違い、床が剥がされている箇所もあった。

なんだこれは。

「匡貴」
「っ、由紀さん」

反射的に距離をとった俺を見て由紀さんがまたあの日の夜のように目を鋭く光らせた。

「俺の家に帰って来てね、って言ったよね?」
「この状況を説明しろ!」
「だから、5日間だけだってば。おばさんもそう言ってただろ? 5日間、俺に監禁されててよ」

ね、と続ける由紀さんの言うことに信用ができない。

「匡貴」

俺の名前を呼ぶ声はとても甘美で、今すぐその胸に飛び込みたいのに体が震えて動かない。

ゆっくり由紀さんが俺に近づいて、動かない俺の首をゆっくり締め上げる。また酸素がゆっくりと俺から失われていく。俺が意識を飛ばす瞬間、深いキスをされた。

◇◆◇

また目が覚めた。時刻は19時28分。

「おはよう匡貴。全然起きないから心配しちゃったよ」

由紀さんが何事もなかったかのように微笑む。

「学校とボーダーには体調不良って伝えてあるから安心して。さぁ、そろそろ夕食の時間だよ。行こう?」

俺の手を引いてベッドに座らせると壊れ物を扱うような丁寧な手つきで足枷が外された。

どうして誰も、何も、言わないのだろう。

◇◆◇

おかしいな、あれから何日経ったのだろう。由紀さんの両親も、学校も、ボーダーも、俺が由紀さんの家に泊まる前から何も変わらず、おかしいのは俺だったのかもしれない。ただひとつ、確かに変わったことはセックスをする時に由紀さんが俺を酸欠にしようとすることだ。

そんな俺もその行為に慣れてくるとそれを快楽として甘受するようになり、その様子を見て由紀さんは嬉しそうに微笑むのだ。

「匡貴、気づいてる?今日は金曜日だよ、明日帰れるね」
「帰る?どこに?」
「匡貴のお家」

あの日から毎日あったセックスはなく、こんな静かな夜は初めてかもしれない。ちらりと窓の外を見ても俺の家は真っ暗で、本当に帰る場所なんてあるのだろうか。

ベッドに横になっている由紀さんの横に潜り込むとくすくすと笑われたが、5日目の夜は由紀さんの腕の中で静かに過ぎていった。

由紀さんの言葉を信じるのならば、土曜日の朝、11時、由紀さんは俺の足に付いていた鈍い色をした銀を外した。

「匡貴にこれ、あげるね」
「はぁ」
「どこかに保管しといて」

銀の入った箱をバッグに入れ、俺は無言の由紀さんと俺の家に向って歩く。

俺の家のチャイムを鳴らすと中からパタパタと音が聞こえてきた。

「あら、おかえりなさい。由紀くんもありがとうね」
「いえいえ、とても楽しかったです」

どういうことだ。目の前にいるのは紛れも無く俺の母親で、何事もなかったかのように家にいて、由紀さんと話している。

「床暖房、どうですか?」
「すごくいいのよ! 後でお礼に伺いますってお母さんに言っておいてもらえる?」
「はい、ではお待ちしています」
「そうそう、お土産があるのよ、ちょっと待ってね」

またパタパタと家の中に入っていく母の背中を目で追うと、とんとん、と俺の肩を叩かれた。

「匡貴大丈夫?」
「説明してください」
「簡潔に言うなら、俺の親戚のおじさんが床暖房を匡貴の家に設置してた」
「俺を連れ出す意味は」
「おばさんが夫婦水入らずで温泉に行きたいって言ってたから、匡貴は俺の家に泊めますって提案した」

驚いた?といつもと同じように柔和笑みを浮かべる由紀さんの瞳の奥は、いつもとは違うあの日の夜のように深い色をしていた。


  


......

あれから俺は大学生になり、由紀さんはひとり暮らしを始めた。

「あれ?匡貴、また来たの?」
「はい」

俺の手の中にはあの日の銀が鈍く光っている。

For Katou 20160107
監禁ネタ交換をさせていただきました。
長くなりそうだったので中略してしまいました。
真っ暗な家を客観的に見るとこわいです。
二宮は一度覚えた快楽をずっと忘れない気がします。



嘖めよ花、赦されよ毒